小さな可愛い三角屋根のお家でケーキやパンを焼きながら旦那さんの帰りを待つ。







コーヒーに砂糖とクリームをこれでもかと入れたような話をは俺にむかって恥ずかしげもなくする。よりにもよって、俺に。
は将来、結婚したらどの様な生活をするのが理想か、という話をさっきから延々と俺に聞かせている。この手の話は、自分でいうのもなんだけど無表情で大したリアクションもとれない俺にするのは違うと思うんだけどな。






「それでねー、できれば犬も飼ってね、生まれてきた子供の慈しみの心を」


「慈しみなんて言葉が俺の知り合いから聞けるとはおもわなかったよ」


「そうなんだ?うん、やっぱり優しい子に育てるには動物が一番だよね」







俺の嫌みもさらりと流しては自分の話を続ける。

すごいな。もし君がじゃなかったら絶対殺してたと思う、うん。



仕事が終わって、携帯を見たらからお茶でもしようとメールが入っていた。
仕事終わりでも、もちろんの誘いは断れない。
けれど、そんな俺に久しぶりに会ったはなぜか最近、”婚活”をしようと思っていると言い、そこから発生した理想の結婚生活を飽きることなく話し続けている。









「それでね、男の子なら警察官、女の子なら看護婦さんとか人の人生に関われる仕事を」





もう俺はまともにの話を聞いていない。
とりあえず右から左へ適当に流しながら、コーヒーを飲む。
でもこれはいつものことで、前にがイケメンの芸能人にはまった時も、変な占いにはまってた時もずーっととぎれない話を聞く俺なりの方法だ。
視線だけはにむけながら(そうしないと話を聞いていないと機嫌を損ねて相当面倒くさいことになる)ぺらぺらと動くの口元を見ていると、なんだか外見は似ても似つかぬ母さんの陰が重なっていく。



うーん、俺はマザコンなのかな?



いや、父親似なのかも。





日頃から「なんで父さんは母さんと?」と首をひねることが多かったけど、父さんの気持ちがなんだか解った気がした。うーん、ちょっとショックだ。
















、でもその将来設計の八割は叶わないよ。」


「・・・なんで?」


あたしが一通りの話を終えて、お茶をすするとイルミが流れをぶった切る一言を放ったので、少しむっとして聞き返した。



「だって、俺はできれば二世帯、あ・違うや五世帯住宅?希望だし、そうなるとうちにはミケがいるからもう犬は飼えないし、子供の将来は、まぁ人の人生に関ってるか、ものすごく」


「イルミ、それってさぁ。」



まるであたしがイルミと結婚するみたいじゃない。


と、少しの恥をこらえてイルミに問うと、彼は表情はそのままに少し首を傾けた。




「そうじゃないの?」


「イルミ、あたしの話聞いてた?」


「うん、だいたいは」


「じゃぁ、なんでごく普通の幸せな恋愛観を抱いてるあたしがイルミと結婚しなきゃなんないの?」





あたしがその疑問をぶつけると、イルミの周りを覆う空気が少し変わった気がした。




「じゃぁどうしてはその理想の将来設計を俺に話してるの?」


「どうしてって・・・」





別に意味はないけど、というあたしの言葉を遮ってイルミが呟く。




「俺以外の男との結婚生活の希望を俺に話してたってこと?」





気のせいじゃない、イルミの表情は変わらないけどイルミの機嫌が格段に悪くなってる。こういうのってイルミにしては珍しい。でもごくたまになる、そういう時のイルミって、すごく怖くて陰険なのだ。
あたしは念?とかそういうの全然わかんないけど、人としてイルミの機嫌の善し悪しくらいは雰囲気で解る。(でもそれって家族以外の人間にすればすごいことらしい)








この前機嫌そこねたのはいつだったっけ?

どうして機嫌治してもらったんだっけ?


頭をフル回転させて今の状況を打破する方法を探る。





ええっと、

テレビにでてた俳優の目が印象的で格好良いって言えば、先一週間、四六時中あの黒い目で見られていたし(しかも常に正面に回り込んでくる)、イルミの誕生日におめでとうの一つも言わなかったら、あたしが9回目の土下座するまで口をきいてくれなかった。







そうか過去の行動をよく考えると、イルミったらあたしのこと好きなのか。
あ、これ時々おもうんだけどイルミの表現力の乏しさについ忘れてしまうんだった。







「駄目だよ、はうちの家に嫁入りするんだから」



「うーん、とりあえずゆっくり話し合いを重ねていこうか?」





あたしが過去の経験から考え出した対処法は、とりあえず逆らわないこと。