「ねぇ、イルミが君のこと婚約者って言ってたんだけど、本当?」



ヒソカだよ。とさっきイルミに紹介された男が、あたしに耳打ちした。
イルミに連れられてきたパーティーはあたしには絶対に仲良くなれそうにない姿形をした紳士淑女のみなさんが集まっていて、ただでさえいごこちが悪い。

もうこのヒソカって人の日曜日の繁華街でピクリとも動かない芸をやってる芸人のような姿形を見た時点で、あたしは絶対に関わらないでおこうと心に決めたのに、イルミの紹介のせいで興味を持たれてしまったではないか。




「それは、これから時間をかけて決めていくことです」



あたしがイルミに聞こえないように答える。
少し離れた場所でお金持ちそうなおじさんと話し込んでいるから大丈夫だろう。



「ふーん、どう見ても普通の人間にしか見えないけどなぁ」



と薄気味悪い顔でヒソカがあたしを見たので、すこしむかっときた。


世の中のほとんどはあたしみたいな普通に生きてる人間なのに。





「でもまぁ僕を見て怯えないし度胸はあるよね?」


「できれば、近づきたくはないんですけど」


「そう言われると近づきたくなっちゃうよ」



ぐぐぐーとヒソカがあたしに近づく。
あたしは本能的な危険(例えば夜の公園で会った変質者に対するあの恐怖)を感じて
体を離そうとする。でも、なぜか体は動かない。



「ちょっと、にガムつけんの止めてくれない?」


イルミの声がして、あたしの体がヒソカからふっと離れた。


「ああ、ばれた?」


「俺にばれるようにわざとやってたくせに。」




イルミがあたしの腕を引いて、あたしはヒソカからイルミの側へとうつる。
ヒソカはそんなあたし達の様子を「へぇ」とか言いながら楽しそうに観察してるようだ。



「頭に針でも指してるのかと思ったけど、ほんとに何もしてないんだね」


「失礼だなぁ。」


イルミが心外そうに言って、あたしの髪をなでた。


「針って何?」


「針のこと、知らないの?」



あたしの素朴な質問にヒソカが意外そうに呟いた。




「うん。は念も使えないからね」


「へぇ、本当に普通の人間なんだね」



あたしの針って何?の疑問は完全にスルーされている。
念とかハンターの人って、ちょっとマイペースすぎない?





「でもさぁ、よく許してくれたよね。おじいさんとかさ」




一瞬、どきんと心臓が跳ねた。
そして、突然のヒソカのこの一言に、気づいてしまった。




あたしってどうなの、どうなのゾルディック家的には。







だって、あたしたぶん念とか使えないし、人も殺したことないし大金もらっても殺せないだろうし・・・。





イルミったらあたしのことちゃんと両親に話してるのかな?

ここまで来て親に反対されてお流れ、なんてなったら嫌だ。




そう思い始めたら、なんだか胸がざわざわし始めて、イルミに目でそこんとこはどうなの?と訴えかけてみた。





「そんなこと気にしてたの?」



あたしの目線を読み取ったイルミはいつも通りの表情で首をかしげた。




「気になるじゃない。あたし、たぶん念とか使えないんだよ?」



「よく考えてみなよ、暗殺一家の嫁に来る奴なんてそれだけで希少価値だよ」


「?」


「ゾルディック家に嫁ぐっていう度胸だけで父さんも母さんも納得するよ。」



そんなもんなんだ。とヒソカが呟く。
彼はもう興味を無くした様子であたりを見渡し始めた。




「いいの?念とかたぶん使えないけど大丈夫?」


「さっきからさぁ、何?”たぶん念使えない”って。」


「いや、使ったことないから使えるかどうかわかんないじゃん」


「なんで使えるなんて思っちゃったの。無理だよ」


ちゃんってちょっと頭弱いんだね」




ヒソカの失礼な発言と、完全にあたしを見下した態度にでたイルミにそんなのわかんないじゃん!とたてつくと、イルミはめんどくさそうにテーブルにあった水を入れたコップに観葉植物の葉っぱを浮かせてあたしにさしだした。

何これ?ばかにしてんの?と憤慨すると、
イルミは「一番残念なのは君の頭の悪い遺伝子がゾルディック家に入っちゃうことだよ」と相も変わらず無表情で言い放った。