「なんや、。元気ないなあ。」 日本史の先生の抑揚のない声が響く教室の中、頬杖をつくあたしに隣の席の白石が話しかけてくる。 白石はすごく整った顔と中世的なルックスで女の子に人気ある男の子だ。でもクラスの女子からは残念なイケメンと呼ばれている。 あたしは右隣の席で時々、包帯がチラチラ視界に入ってきて気になるなぁ、というくらいの認識をしている。そこまで話すわけじゃないのでどんな子かはよく知らない。 「今日だるい。」 白石が気付くほど元気がなさそうだったのかと思いながら、体調が悪いというよりは気分があんまり乗らないという趣旨の言葉を選んで口にする。それでも白石は心配そうな顔を崩さなかった。 「まだ2時間目やで。ちゃんと朝ごはん食べたんか?」 「食べた、りんごとブドウ」 「へぇ、朝からフルーツてお洒落な家やねんな。」 こんどは感心したようになった白石の顔に、あたしはちょっと誤解を招いてしまったな、と思いながら言葉を続ける。 「…もぎもぎ」 「ん?」 「もぎもぎフルーツ。」 「もぎもぎフルーツ!?それ駄菓子やん!」 白石が大声をだした。一瞬、先生の話が止まってみんながあたし達の方に注目する。あたしは少し気になったけど、白石にはあんまり関係ないみたいで周りを見ようともしない。 思ったよりも食いついてきたのでちょっとびっくりしながら「うん。」と肯定したら白石は更に信じられないと言うような表情をして、「ご飯ちゃうやん…」とあたしの方を見つめながら呟いた。そう言いながら包帯の結び目を直しているのが何か気になる。 「フルーツやし。」 そろそろ面倒になってきて、適当にあしらおうとしたら「ちゃう!、グミなんかやなくてご飯とかパンとか食べなあかん。」と、クラスメイトの男子とは思えない様なお説教が始まってしまった。あんまり聞いてなかったけど、「エネルギーが」とか「女の子やねんから」とかそんな感じの言葉が羅列されていた。 もう先生もクラスメイトもあたし達に興味をなくしてしまって、さっきと同じように授業が進んでいる。 「なぁ、。聞いてんの?」 「なんなん、お母さんみたい。」 「お前のオカンやない。白石や。」 「何その返し方。」 「話そらしな。俺のお弁当あげるから食べなさい。」 「…!いらん!」 白石の突然の提案にあたしは動揺して思わず即答してしまった。 でも、席が隣というだけで女子に自分のお弁当を差し出すかな普通?あたしが白石の考えを読みかねていると、白石は「何でや。うちのオカンの料理おいしいで」と見当違いなこと言って心外そうな顔をした。 「そういう問題ちゃう」 「ほななんや」 「そんなんもらえるわけないやん!」 「いや、遠慮せんでもええで?」 「それやったら自分のお弁当食べるわ。」 「の昼ご飯無くなるやん。」 「今食べたら昼休みはお腹空かへんから大丈夫。」 「中途半端やなあ。あ、そや俺小さいパン持ってるからそれ食べ。いっぱいあるから」 口論の末に白石は自分の鞄をごそごそと探って、透明の袋に入れられたたくさんのパンを取り出してあたしに見せた。 「何でそんな持ってんの。」 「部活の後、みんなお腹減ったゆうてうるさいからな。」 「………………ありがとう」 何か腑に落ちない物を心に抱えながらも、これ以上抵抗すると非常に面倒くさいことになりそうだったのであたしは素直にお礼を言ってパンを受け取った。有名な食品メーカーのでも街のパン屋さんのものでもなさそうな、どこで買ったんかわからん白石のパンは異様に柔らかかった。 「あ、今食べたあかんで。次の休み時間に食べや。」 「うん(わかってるわ)」 白石の余計な一言にいらっとしつつ、あたしはパンをティッシュにくるんで机の端に置いた。隣の白石を見ると、彼はもう何事も無かったように黒板に向き直っていて、その整った横顔はさっきまでのやり取りなんか無かったみたいだった。 「なは、へんやふん、ひらいひって」 「え!?何!?何喋ってんか全然わからんねんけど」 休み時間、パンを食べながら話してしまい大きな声を出して聞き返してきた謙也くんにうるっさいなあ、とか思いながら口の中のパンを慌てて飲み込む。 「謙也くん、白石ってキャラ濃いやんなあ。」 「そんなもん、今更始まったことちゃうやん」 謙也くんはずれたズボンを直しながら、あたしの方を見もせずにそれだけ吐き捨てて眠そうにあくびをしながら向こうに行ってしまった。白石のくれたパンは意外と美味しかった。 濃縮還元100% ------------------------10.05.07 オカン系男子。 |