「どうすんねん、これ」





放課後の部室、目の前の段ボール箱の数に忍足が呆れた顔をしている。あたしは例にもれず正座だ。正面のソファーに座る跡部を中心にぐるりとレギュラー達があたしを取り囲んでいる。ただの真面目なマネージャーなはずなのに、最近こういうの多いなぁ、とあたしは頭の隅でぼんやりと思う。


















先日、あたしが注文したつもりだったテーピング道具はどうやら商品番号の書き違いにより大量の医療用包帯となってしまったようだ。さっき届いた段ボール10箱に、たまたま部室に居合わせた忍足と岳人と宍戸が目を丸くして、聞きつけた跡部が駆けつけてきた。長太郎は「あらら」という顔をしている。日吉に至っては、またあの表情だ。最近はこの顔の日吉しか見てない気がする。








200人の部員がいようと、さすがに段ボール10箱の包帯は使わない。あたしの正面に座った跡部が顔をしかめている。これも例に漏れず。あたしが正座をすると跡部は苦い顔、日吉は軽蔑したような表情、その他の部員は呆れ顔になる。ただ一人、表情の変わらない樺地くんに親近感を感じているけど、何故か跡部は樺地くんにあたしを近づけたがらない。







いつもならこの重い空気にうんざりとするところだけど、今回は完全にあたしのミスなので言い訳するのもお門違いだし、あたしは黙ってうなだれるしかなかった。







「ごめ、」
「おい、どうすんだこれ。あーん?」







謝罪の言葉を口にするのを遮って跡部があたしを睨む。うちには榊監督も跡部もいるので部費どうこうということではないと思うのだが、完璧主義な跡部はこういう簡単なミスをすること自体許せないようで、ここぞとばかりにあたしを責め立てる気満々な様だ。










「大体、何でテーピングと包帯を見間違えんだよ?」

「商品番号を間違っただけで、包帯見てテーピングと思ったんじゃないもん。」

「見た目で間違えたのかと思ったぜ。お前のことだからな」








跡部が練習メニューに目を通しながら、あたしのことをねちねちと責めてくる。
後ろで宍戸が「ありえるなー」なんて呟いたから、正面にいる跡部に気付かれないように手元にあったタオルの端を使って叩いたら、すかさずはたき返された。お返しにスリッパを投げたら、跡部から「ごちゃごちゃすんな」と叱咤された。悔しい。













「保健室に寄付したらどうですか?」

「駄目だ。」






長太郎が提案する。ああ、その手があったかと少し気持ちが楽になったのも束の間で、跡部がさっさとその案を切り捨てた。






「最近、校内の備品を補充したところだからな。」







保健室に包帯なんて、いくらあっても良いじゃないか!あたしは心の中でそう思うけど、口に出していわない。やっぱり元々の責任はあたしにあるので、余計なことを言ったらみんなから(特に跡部と日吉に)睨まれることなんて目に見えてる。





でもやっぱりなんとかならないかと頭を捻らせていたら、良いことを思いついた。
またみんなを困らせてしまわないように、言っていいことかどうか一度自分の頭の中でぐるりと考えてみた。うん、大丈夫。








「あのさぁ、」




あたしの言葉にみんなが振り向く。
忍足や長太郎はあたしの話を聞いてくれる姿勢だけど、跡部は練習メニューのノートから視線を外さなかった。もうあたしの言うことなど全く当てにしてないのだろう。
ちょっとムカッとしたけど、そのまま言葉を続けた。






「包帯、立海にわけてあげて良い?」
「だめです。」





日吉が即答した。日吉が代わりに否定したからか、跡部はやっぱり練習メニューに視線を落としたまま何も言わなかった。でも二人とも相変わらず顔をしかめている。最近、日吉は跡部に似てきてる気がする。それ嫌だなぁ。










「いやいやいや、なんで分けてあげるっていう上から目線なん?」

「だって立海っていつも怪我してるよ。包帯、すっごい必要としてそうだし。」

「そういう問題じゃねーよ!」

「なんでー?」

「お前、いつも一回頭ん中で考えてからもの言えって言ってんだろーが」

「考えたんだけど」




              


忍足と宍戸がすごい勢いで捲し立ててくる。でもこの案は良いと思うんだけど。
跡部に偵察を言いつけられて関東大会、全国大会と見ていた限りあの学校が血を出さないことはなかった。
正直、ひいたけどあれがプレイスタイルというのならば救急道具くらいは自分達の方から差し出した方が良い気がする。そう思うと、うん!やっぱりあの髪くるくるの男の子には包帯を常備させるべきだ、とあたしのマネージャー魂に火がついた。









「じゃあさ、差出人が解らないようにして送ろうよ!」

「あかんあかん!なんでお前、良い事思いついたみたいな顔してんの?」

「え?だめ?」

「俺はそれ良いと思うけどなー。」

「ジローは黙ってろ。」

「こっそり部長さんに渡すのは?」

「あかんわ!」








「お前、あいつらが乗り込んできたらどーすんだよ?」







あたしと忍足と宍戸のやり取りの末に、岳人が避難の声をあげる。
そんなヤンキーの抗争じゃあるまいし。








「あはは、大丈夫だよ。跡部もあっちの学校に乗り込みにいったことあるし。」







岳人にあたしが冗談ぽく言った途端、周り全員が黙り込んで空気が張り詰めたようになった。あれ?この話題タブーだったの?周りを見回してもみんなあたしと目を合わせてくれない。あ、長太郎は笑いこらえて肩震えてるわー…。





でも一人だけ、がっつりとした視線を体中に感じる。今まであたしの方なんか一切見てなかったのに何でかな。あたしは目の前にいる跡部の顔だけは見れない。

















(結局、大阪の四天宝寺中学に送ることになりました。)











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リクエストありがとうございました!
心さんに!マシュデリより5年間の愛をこめて!ヒナ





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