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可愛い子には?









「のう、名前」




昼休み耳になじんだ声で名前を呼ばれ振り向けば、仁王が少し眉尻を下げた微妙な表情をしてあたしを見ている。この顔は困ったことがあるけど言い出せない時にする顔だ。こういう時はあたしから訪ねなければ仁王はずっとこのままで何も言わない。面倒くさい気持ちからくるため息をついてから「どうしたの?」と仁王に聞いた。
そうすると、ようやく仁王は薄い唇を開く。










「ドライバー、真田にとられてしもうた」
「ドライバー?この前あげたやつ?」
「そうじゃ」








先月、あたしがホームセンターに行った時に、なぜか仁王がドライバーを欲しがっていたのを思い出したので買ってプレゼントしてあげた。あたしがイタズラ心で”仁王雅治”と名前を書いたシールをドライバーに貼ったのを見て、嫌がるどころか喜んでいたのを思いだす。




仁王によると、部活の練習中にそのドライバーをいじっていたところ、運悪く機嫌の悪い真田に見つかってしまい「テニスに関係ないものを持ち込むな」と没収されてしまったらしい。
それはお前が悪いだろう。と思ったけど、説明する仁王はどうも腑に落ちないという顔をして「真田のやつ、普段は見逃すくせに。自分の機嫌が悪いからってのう」とぶちぶち文句を言っている。




そして一通りの文句を言い終えた後、あたしの方に向き直って何とも呆れたお願いをしてきた。








名前、俺の代わりに取り戻してきてくれんか?」
「・・・ん?何で?」
「真田のやつ、最近ピリピリしとるから近づきたくないんじゃ」
「それ、あたしだって嫌だよ。」
「女子にはきつくあたらんじゃろ」








普段は詐欺師なんて言われてるくせに、彼女という立場のあたしからすれば仁王には男らしさというか意気地がいまいち足りない。テニスの大会の場でも、身内の柳生や真田のことはすぐいじったりするくせに他の学校の子にはあんまり話さないし内弁慶だ。全国大会の決勝戦でも勝利を確証した自信から相手の子に散々大口をたたいて結局負けた時は、すごい勢いでいじける仁王を慰めるのに苦労した。







そんな仁王がまた情けないことを言っている。
なんで同じ学年のチームメイトにドライバーを取られたくらいで落ち込んでいるのだろうか。あたしが呆れているのを感じ取ったのか、仁王がちらりと様子を見るようにあたしに視線を投げかけてから、口をとがらせる。







「あの、猫がおったろ?」

「猫?キティちゃん?」






聞き返しながら、あげたドライバーにキティちゃんのシールも貼ったのを思い出す。もちろん嫌がらせのつもりだった。







「ああ、」
「キティちゃん、気に入ってたの?」
「そうじゃ」








仁王が本気で残念そうな表情をしている。そうか、ものはどうであれ、そんなに気に入ってくれていたのか、キティちゃん。でも、なんだかなぁという感情がぬぐえない。あたしはこの歳にしてこんな男に引っかかってしまって大丈夫なんだろうかと、自分で自分を心配してしまった。









「そうじゃ、名前。新しく買ってきてくれんか?」






良いアイデアを思いついたように顔を明るくして、失礼な事を頼んできた仁王を「ばか」と叱ったら、彼の肩が下がって目に見えるほどの落ち込みを見せた。その仁王の細い腰を押して、真田の所に行くように促す。







「キティちゃん待ってるよ。」








あたしもついてったげるから。そう付け足しても、やっぱり気が進まないようで「絶対、真田の奴説教するぞ」と憂鬱そうに呟いていた。そんな仁王の拗ねたような横顔を見て呆れた気持ちと同時に、何ともいえないくすぐったいものがわき上がってくるそれは母性本能ではなく恋愛感情だと願いたい。
















-------------------10.04.07
リクエストありがとうございました!
cocoroさんに!マシュデリより5年間の愛をこめて!ヒナ