光と喧嘩した。












光は普段テニスばっかしてて、休みの日はパソコンばっかしてて、あたしと一緒におる時は音楽ばっか聞いてるような子だ。それでもあたしは光のことが大好きでもっと一緒に遊びに行ったり話したりしたいけど、遊園地も水族館も光には全く魅力がないらしく、せいぜい映画館か光の買い物に付き合わされる電気屋、CDショップがもっぱらのデートスポットだ。(そしてデートというフレーズを使うと光は嫌がる)






そんな光が精をだすテニス部の全国大会がやっと終わったと思ったら、次は高校生の合宿に参加すると言い出した。というか、参加しないと言っていたくせに結局行ってしまった。
あたし達は学生やというのにこの夏休み、一度も二人で外に出ていない。せめて全国大会が終わった後に花火大会に行こうと誘い、馬鹿にしたような笑みを顔に浮かべて「花火デートて。」と鼻を鳴らした光になお食い下がって、やっと取り付けた約束をほっぽり出される形になった。




喧嘩の原因はそれです。あたしが一方的に怒って、光が「そんなんしたいんやったら他あたって」と吐き捨てて、鬱陶しいとでもいうように耳にイヤホンをつけて音楽を聞きだした。あたしはそのまま光の部屋を飛び出して、あれからお互いに連絡はとらずに気がついたら時間は結構経っていた。



















こっちむいてベイビー!





























光との喧嘩はたまにあって、いつもは光が何もなかったようにメールや電話をしてきたりして、あたしはなんだかんだその連絡を待っている。でも今回はそれが来ない。






携帯のカレンダーを見ながら、光と最後に会った日から2週間ちょっとかとため息をついた。喧嘩はしたけど、疎遠になるなんて予想してなかったし、そのつもりも無かった。今日のみんなと行った花火大会だって光との予定だったのに、浴衣もそのために買ったのにと大きい花火を見てもいまいち上がらなかった気分から、足を引きずって歩いていたら下駄がアスファルトに擦れる音が夜の住宅街に響いた。








携帯のメールボックスにも着信履歴にも光からの新着は無いし、その沈黙が怖くて自分から連絡するのも躊躇ってしまう。
でもなぁ、と悩んでいるあたしの背後に、別の足音が重なる。結構遅い時間だけど終電はさっきだったので、自分の他に人がいてもおかしくはない。あたしはダラダラ歩いていたから先に行って貰おうと道路の右側によける。ところが、今まで速かったその足音の感覚が急に開き後ろの人が歩くペースを落としたのが解った。







こんな時間なこともあって、ちょっとだけ心の中に不安が生まれる。
それと反対に意識しすぎかなという気持ちもでてきて、あたしは家とは別の方向の角を右に曲がってみる。後ろを振り向かずに意識だけ背中に集中させる。足音はなくならない。少し焦りを覚えて次の角をまた右に、また右、右と曲がったら、さっき歩いていた道にでた。背後の足音は相変わらず無くならない。これはまずい、と思って足を速めて手に持っていた携帯電話を開く。とりあえず家に電話してみる。けれど家族はみんな寝てしまっているのかコールの音だけが耳に響く。




次に頭に浮かんだのは光の顔。でも連絡取ってないということもあるし、今は合宿中だし大阪にいないんじゃないかとかじ邪魔になるんじゃないかという思いが浮かんでしまってどうすることもできない。
どうしようどうしよう、と思ってる間にも後ろの足音の感覚も速くなっている気がするし、恐怖感と焦燥感が順番にやってくる。いっそ振り向いた方が良いのかなという考えがよぎったところで前方に視線を向けるとコンビニのネオンがあるのが目に入った。










少し息をきらしながら入ったコンビニの店内には商品を並べている店員が一人いるだけで他に客はいない様だった。それでも人工的な明るさといつも使っているお店の見慣れた風景に少し安堵する。振り向いて外を確認してみたけど、そのまま通り過ぎてしまったのか人影は見あたらなかった。けれどその暗闇にまだ何か潜んでいる気がして、外に出る気にはなれなかった。




もう一度、家と親に電話をしてみたけれどやっぱりコール音が耳に響くだけで彼らが起きる見込みもない。このまま一人でコンビニにいるのも嫌だし、としばらく悩んでやっぱり光にかけてみようとメモリーから”光”の文字を探すのとコンビニの来店者を知らせる音楽が鳴るのが同時だった。
















聞き慣れた声がして振り向くと、なんと入り口の自動ドアの向こう側に光が立っていた。見慣れたTシャツとジーパン姿で、「前通ったらお前見えたから。」と久しぶりに会ったというのにいつもどおりマイペースだ。







「ひかる、」
「今ちょうどお前んとこ行こうと、」






光が言ってることなんか全く耳に入らずにあたしはすぐにコンビニから出て、何か言おうとする光にとびついた。光は突然のできごとに驚いているのか、いつもの「きもい」なんて反応は出ずに、「え?何?」と目を白黒させている。







「道歩いてたら、めっちゃ後ろついてくる人がおって、」

「え?誰もおらんけど?」





一瞬だけ光のまとう空気がこわばって周囲を確認したのが解った。でも怪しむような人影は無かったのか、すぐにいつもの緊張感のない光に戻った。


ぐすぐすと鼻を鳴らしながら説明するあたしの背中に光の細い腕がまわる。久しぶりに光の臭いに包まれて、さっきまでの不安は徐々に無くなっていく。誰か知らない人がついてくるという恐怖感と、その前の光から全然連絡来ないっていう不安。







「びびりすぎちゃん?」

「ちゃうわ、光が何も連絡してけえへんから、」

「あー、合宿いてたとこ全然電波入らんかってんて」

「え?そうなん?」

「うん、ほんで今からお前んとこの家に土産持って行くとこやってん。」






そう言って光は手元の紙袋を持った左手をあげる。









「じゃぁ、電波入らんかったから連絡くれへんかったん?」


「まぁ、練習きつかったんもあるけどそやな。」









「言うてよ!」と言ったら「それができんかってんやろ」と吐き捨てるように即答された。
それでもあたしは久しぶりに光に会えたのが嬉しくて、光のTシャツを握っていた自分の手を移動させて、光の腕に絡めなおした。夜中とはいえ、街中で手をつないだりするのも嫌がる光がそんなあたしの行動に「お前しゃーないな。」と言っただけでされるがままだったのは、きっと光だって同じ気持ちなんだと受け取ることにしよう。










「今日花火大会やってんで」

「ああ、やから浴衣なんか」

「一緒に行こうって約束してたのに。」

「ほな今したええやん。花火買ってこか。」














---------------------10.05.01


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綾瀬さんより!マシュデリより5年間の愛をこめて!ヒナ