喧々囂々牛もうもう













うん、確かに踏んだよ。トイレの床に転がっていたので(正確にはあたしが転がしたんだけど)
「臭い」って言って、顔を踏みました。 








「顔はあかんで、顔はー」


顔をしかめて言うあたしに、ガックンは「そーいう問題でもないだろ」と言いました。
あたしは今、部室でレギュラー部員に囲まれて正座させられている。跡部と樺地は監督のところでいなかった。あと、日吉が輪の中には入らずに端っこでうざそうに座ってた。






なぜこんな状況なのかと言うと、『跡部の今の彼女の顔を踏んだ』 から。
(『今の』ってのは、跡部はすぐに彼女が変わるからだ。)






今日の昼休み、テニス部のマネージャーのあたしは跡部の彼女に「お前、ちょっと顔かせよ。」とばかりにトイレに連れていかれ、えもいわれぬ中傷を受けた。



それに加えてハサミなど持ち出すし、跡部の前での声色とあたしに対するものがあまりにも違っていて、正直、鬱陶しくなった。
なので細い足を横に払ったら、思ったよりも簡単に床に倒れたので、あたしがそういう行動に至ったわけだ。



それから放課後までに、その話は彼女とその友達の手によって一気に校内を駆け抜けて、あたしは放課後すぐにレギュラー達に部室に呼び出され、現在にいたる。
























「トイレっていうのもまた問題やでー」
「だって、トイレに呼び出されたんだもん!仕方ないよ!」
「でもさすがにトイレの床は・・・俺もちょっと嫌やわ」
「でも、先輩は呼び出されたんだからしょうがないですよ」




想像したらしく、思い切り嫌そうな顔をした忍足に長太郎が口をだした。
それに、宍戸が「長太郎、を甘やかすんじゃねぇよ」と帽子を回しながら言う。








「しかも、さん、上靴のままで踏んだんでしょ?」


今まで黙ってた日吉が、ちょっと軽蔑した眼差しをあたしに向けた。





「そうだけど、あたしは来客用のスリッパだからみんなのみたいに底がギザギザじゃないんだよ」


ホラ、と言ってあたしは“氷帝学園”とプリントされた薄っぺらいスリッパを見せた。



「えー、もしかして上靴にも何かされたのかよ!?」


ガックンが言って、宍戸が「女ってこえ〜」って顔をゆがめた。





「ううん、なんとなく蹴りとばしたら、榊センセに当たって怖くて取り返しに行けなくなった」







あたしの説明に、長太郎が「先輩らしいですね」と笑って、忍足とガックンと宍戸は「心配して損した」ってため息をつく。日吉は別になんにも言わないけどそういう顔をしていた。








「とりあえず、えげつねーことしたお前が悪いんじゃねぇのか?」




宍戸はそう言ったけど、あたしはどうにも納得がいかない。







「だってさ、あたしもスカート切られたんだよ?正当防衛だよ!」



だからあたしは今、ジャージをはいているし、
高かったスカートをまたお母さんに買ってもらわなきゃなんないことに憂鬱になった。








「なぁなぁ、お前やったらどっちがええ?」
「えー俺はズボンきられてパンツ見せながら歩くほうがマシだな!」



「お前らも真面目に考えろよ・・・」








そろそろ飽きてきたらしい忍足とガックンがふざけだしたのを、宍戸がたしなめる。
そんな時、ガチャリと扉が開いて、跡部と例の跡部の彼女が入ってきた。



彼女は、あたしをみると、怯えた顔をして跡部の後ろに隠れた。

トイレの時の態度とは大違いだ!








跡部は、「おい、そいつ反省してんのか?」といつも通りの尊大な態度だ。





「んー悪いと思ってるみたいやけど、にはの言い分があるみたいやでー。な?」

「面の皮が厚そうだから、ちょっとぐらい踏んでもたいしたことないと思った。」


忍足の言葉にあたしが真摯な態度で跡部に向き合って、不機嫌そうにこっちをみている彼に真実を伝えた。
日吉がブッってふいて、肩が揺れた。(レアだ)





「お前はそーいう事をいうから解決するもんもしねぇんだよ・・・」





宍戸はあきれ顔だ。



彼女は、「・・・っっ!ヒドイ」って言って、大きすぎる目を潤ませている。
もちろん、化粧が落ちちゃうから、涙を流さないことをあたしは知ってる。
跡部の顔が複雑そうだったので、あ、跡部にもそういう認識はあるんだな、と調子に乗ったあたしはさらに「スッピンだったら、絶対あたしの方が可愛いよ!」って主張した。そしたら、彼女の顔が一瞬引きつった。



いつでもあたしの味方の忍足が「多分そやろなー」ってうなずいて、ガックンは「俺はナチュラルメイクが好きだからなー」って腕をくんだ。それに宍戸はアホみたいな顔をしてた。







「そういう問題じゃねぇんだよ、」と跡部は少し苛立ちを表情で示している。




「俺の女に喧嘩売るって事は、俺に喧嘩売ってるてことか?」





その言葉を聞いて、跡部の後ろの彼女は「景吾っ・・・」って言って頬を赤らめて跡部を見上げた。うざい。女もうざいし、跡部もうざい。







「喧嘩売ってきたのは、そっちの方からだったもん!いいじゃん、どうせすぐ彼女じゃなくなるんだから」


あたしは反論の意味もこめて跡部に言ってあげると、跡部よりも隣にいる彼女は「なっ!」って変な声を出して、厚塗りの顔がもっと不細工になった。







日吉は「ゴフっ」ってむせた後、「ククククッ・・・」って苦しそうに背中を丸めてしまった。(彼女に何か恨みでもあったんだろうか)
他のメンバーはもう何も言わなかった。長太郎は微笑んでたけど。

怒ると思っていた跡部はあんぐりしてた(レアだ)











「あれー?もう話終わったの?」



微妙な感じの空気が流れたタイミングで、ずっと扉のそばで寝てたジローちゃんが起きた。そして、鼻をおさえて怪訝な顔をする。



「ん・・・?なんか、、、臭いよ?」



その目線の先はもちろん跡部の後ろだ。







「そう!!この香水とトイレの臭いが混じって強烈だったんだから!!」



あたしはここぞとばかりに、跡部に訴える。跡部は何かもう何とも言えぬ顔をしていた。
彼女はとうとう跡部の後ろからでてきて、「私はその子にヒドイ事されたのよ!」とか、なんか色々キーキー声で叫んだ。
あたしはなんだか彼女を可哀想な目でみてしまう。






「ねぇ、」
「何よ!?」


彼女はもう完璧にあたしをトイレに呼び出したあの時のように、素に戻っていた。絶対に跡部にはしない顔をしてあたしを睨んでいる。





「あたしなら、自分がトイレで顔を踏まれた上に臭いと言われたなんて人には言えないよ。もう顔の臭い女って氷帝中の噂だよ?」





あたし言葉に、彼女の顔はグニャリと歪んで真っ青になる。
忍足からも「まぁ、自分にも否があるねんからしゃあないんちゃう?」と援護が入る。







跡部は色々面倒になったらしく、「俺は疲れた。好きにしろ」と頭を振った。

「自分の彼女がこんなに言われて、何も思わないの!?」とヒステリックに怒鳴る彼女に、「うるせぇ女は嫌いだ。もう俺の女じゃねぇよ」 と、跡部が宣告した。
そして、ものの結末に満足してニヤニヤするあたしの頭を殴るのも忘れなかった。





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なんだろうこの話…

2010.03.01再録。