跡部くんがやたらと首の後ろを気にしているなと思っていたら、「いてぇ」と顔を歪ませるようになった。後ろに回って跡部くんのうなじの髪を横に分けて見てみると、小さな赤い発疹が白い肌に散っていた。










「これ、あせもじゃない?」









あたしがそう言った一時間後には有名ブランドのベビーパウダーが跡部くんの手元に収まっていた。先週のことだ。ふざけて”あせもくん”と呼んでみたら、唇をぎゅっとつまんでねじられたのでそれ以来言ってない。














「これ小さい子ができるやつだよ」


「制服とジャージの襟の素材、特注にするか」


「大袈裟、もうほとんど治ってるし」








ご自慢のユニフォームの速乾性をもってしても防げなかったこのプツプツに機嫌を崩してぶつぶつと跡部くんは文句を言った。そんな彼を諭しながらあたしはパフに細かい粉をつけてきれいなうなじへとのせていく。
ソファーに座って大人しく頭を下げている跡部くん。大事に育てられたせいで性格はさておき肌の方はそんなに強くもないみたいだ。特に今年の夏は暑いからなぁ、とちょっと可哀想に思った。










とはいえ、あたしはこの”ベビーパウダーをつけてあげる”という名目にかこつけて、跡部くんに会う回数を増やしている。朝練が終わってシャワーを浴びたあと、体育や放課後の練習の前などに跡部くんの教室やテニス部の部室に足を運ぶ。別に付き合っている人に会いにいくのに理由なんていらないと思うけど、いつも忙しくしていたりあの目立つ跡部くんに「何だ?」と言われて「何でもないけど、」と答えるよりは「粉ふってあげるよ」とか理由を付けた方が周りの人に気兼ねしなくていい。






跡部くんはこれまたお坊ちゃま気質なのか、特に嫌な顔もせずに自分の首筋をあたしに預ける。跡部くんはお風呂に入るとか服を着るとかはもちろん自分でするんだけど、耳掃除や目薬をさすといったちょっと細かいことなんかは人に任せたりする。







「跡部くん髪切りなよ。涼しくなるよ」


「もう坊主はごめんだな。」


「あったねー、そんなことも」


「あの時、お前だって嫌がってたじゃねぇか」


「でも好きだったよ?」







あたしの呟いた言葉を聞き取れなかったらしく、「あん?」と聞き返された。
「好きなまんまだったよ、跡部くんのこと。」とちゃんと耳に届くように言い直したけど、うつむいたまま反応は返ってこなかった。きっと照れてる。











跡部くんのあせもが治った後、ベビーパウダーはあたしのものになった。別にあたしにあせもができているわけじゃないけど、肌がサラサラするので使っている。可愛いピンクのケースに入って良い臭いのするそれはもしかしたら跡部くんが、あたしにも使えるように選んでくれたのかもしれない。


でも、それを確かめて「お前の勘違いだな。」と言われたら恥ずかしいので口にはださないけどね。










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高校生の夏とか