午前11時。駅ビルの食品コーナーは洋食から和食、創作料理に甘い物までたくさんの品数がショーケースに並べられている。明るい蛍光灯にお総菜と一緒に照らされながら、あたしはいくつもの選択肢を目の前に途方に暮れた。何選べばいいかわかんない。





今からお昼を持ってく子とはいつも大抵ピザをデリバリーして食べてるんだけど、昨日の夜は赤也と一緒にピザ食べたばっかりだ。しかも赤也がピザからパスタ、ポテトもチキンもとあれもこれも食べたいと脂っこいものばっかり頼んだのでちょっと胸焼け気味だ。



あっさりしたものが良いなぁと、サラダのたくさん並んでいるコーナーを覗いていると電話の着信を知らせる音がなった。鞄の中を探って携帯を取り出すと、画面は赤也からの電話だということ知らせていて、何だろうと思いながら通話ボタンを押して耳にあてた。あたしに”何?”と聞く暇も与えずに携帯から、赤也の怒鳴り声が聞こえてきた。














!お前、俺のズボン履いてっただろ!ディッキーズのやつ!」













俺のディッキーズ























その言葉にあたしは目線を下に向けて自分を見る。今着ている服はズボンもTシャツも赤也のだ。男の子ものの服だけど、自分が一番ましに着れそうなのをあの散らかった中から選んできたやつ。











「グレーの履いてるけど」

「それだよ!何で勝手に履いてんだよ?」

「赤也、そこにあるやつ何でも着ていいって言ってたじゃん。」

「それはたたんで置いてたやつだろ!?」

「わかんないよ、全部一緒だったよ!」











あたしが反論すると、電話口から「分けてたっつの!」と苛立った声が聞こえた。









そもそも何故あたしが自分のでなくて赤也の服を着ているかというと、昨日赤也に呼び出されてそのまま赤也の家に泊まったからだ。昨日は帰るつもりでいたあたしに、赤也はもうちょっといいじゃんと駄々をこね、あたしはあたしでそんな赤也を可愛いなぁと思う気持ちと、でも明日は友達と遊ぶ約束だしなぁという思考の狭間で揺れていて、結局振り切れずに朝までいたのだ。




泊まる用意なんて全くしてなかったあたしは、多分赤也がこういう時のために新しく買って置いてあった女物の下着(自分の彼氏なんだけど、これにはちょっと男の子すぎてびっくりした。)を付けて、赤也のジャージを借りて寝て朝は赤也の服を借りて彼の家を出てきたのだ。









「今どこにいんの?」

「駅ビルんとこだけど」

「今から丸井先輩と出かけるから、それ履きたいんだけど。」

「は?」

「一回こっち帰ってきて」









当然のように言った赤也の言葉に一瞬耳を疑う。
ここが赤也の家を出て電車で二駅めの場所だってことは、赤也も知っていることだ。
大体、あたしは泊まらないつもりでいたのに、「明日ここから直接いけばいーじゃん」「俺の服、適当に着てけば?」と背中にのしかかってきたのは赤也だ。












「あたし今から友達ん家行くって言ってたじゃん。」

「知らねぇし、それ履くし。」

「今日は違うのにしてよ。」

「丸井先輩に新しいの買ったから履いてくって言ってあんの。」
















結局、インターホンを押して玄関から顔を出した友達に「とりあえず何か履くもの借りていい?」と頼み込んで、平謝りしながら赤也のとこへUターンするという暴挙にでた。訳を話したら「マジかよ、こいつ」って目をした友達に駅前で買ったケーキを差し出しながら、心の中で「だって切原赤也くんのことが大好きなんです。」という友達だけならず自分自身への言い訳を何回もした。




あたしから返ってきたディッキーズを履いた赤也は、悪いと思ったのかついでであったのかは解らないけど、あたしを自転車の後ろに乗せて友達の家まで送ってくれた。そして、そのまま丸井先輩との約束の場所へ向かっていった。





友達の家では恋ばなと銘打った主に赤也への愚痴がこぼれた。これはいつも通り。
そのくせでも夜になると窓についた水滴に雨が降ってきたのを知って、これは傘持ってこいとまた携帯鳴っちゃうパターンかなと思いながら、あたしはいつでも出られるようにと携帯の所在を確認した。























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マシュデリより5年間の愛をこめて!ヒナ