雲一つない青空、これが秋晴れって言うんやろか。きっとそやな。
頭上から照りつける太陽は真夏に比べたら大分ましになったとはいえ、まだまだ暑い。グラウンドの砂埃も加わって、俺は体のだるさをパイプ椅子にあずけた。
周りはクラスメイトや吹奏楽部の演奏、放送部の気合いの入った実況で雑音が溢れてるけど、全く混ざろうとも思えへん。





「おい、侑士。お前もうだれてんの?」




背後から岳人の声がきこえ、体に少し衝撃が走って俺の椅子が蹴られたのがわかった。





「最初からだれてるわ。」




「やる気だせよなー」と言いながら岳人は空いていた隣の席に腰掛けた。ここに居座るつもりらしい。さっきでた100メートル走の疲れもあって、椅子を蹴られたことに文句は言わんことにした。











「自分のクラスおらんでええのん?」

「ここのが競技見やすいんだよ。俺はちゃんと応援してるから良いの」



お前と違って。と余計な一言をつけられた。
体育祭なんかあっついし、なんでそないにみんな張りきってんのか解らん。運動部のくせにと笑われそうやけど、好きでやってるテニスとはまたちゃう。暑いししんどいし、表だって嫌とは言わんけど正直気乗りするもんとちゃう。












「あ、次はが走るみたいだぜ。」


「え?今なにやってんの?」


「借り物競争だよ、侑士マジ何も見てねーのな。」











岳人の言葉に前の方に視線を移すとスタートラインに同じクラスでマネージャーのが立っているのが見えた。テニス部のマネージャーとして忙しく働いてるのはよく見るけど、こういう風にちゃんと走るんは初めて見るなあ。


パアン、とスタートの合図を知らせるピストルの音が響くとともにとその横に並んでいた女子達が走り出す。


10メートルほど先に置かれている紙を全員が同じくらいのタイミングで広い、中身を確認する。はすぐにこちらの生徒席の方の方へと走ってきた。こちらをきょろきょろと見渡しながら、俺のクラスの方へまっすぐ。ってかめっちゃ俺の方見てない?












「忍足!」

「え?何?」

「ちょっと来て!」











の手が俺の腕を力強くつかんだ。突然のことに、抵抗する余裕もなく、に合わせて椅子から立ち上がる。後ろから岳人の「すげーじゃん侑士。がんばれよ!」という声が聞こえた。面倒くさいことになりそうや。







「ちょっと忍足!ちゃんと走ってよ!1番になりたいんだから」




だらだらと走る俺の腕を引きながら、が振り向いて叱咤する。











「えー」

「さっきの100メートル走も手抜いてたでしょ。」

「でも一位なったやん。」

「姿勢の問題!」




が手を離して、俺よりも少し前に出る。けど口では相変わらず「早く、早く。」と急かされていて、俺も仕方なく後について行く。













「なんなん、借りるもん。眼鏡やったん?」

「違う。これ」




そう言ってぴらりと見せられた紙の上には”学園一カッコイイ男子”の文字。いや待って。なんでこんなんに巻き込まれてんの俺!






「えー!嫌やこんなん!晒し者やん、心閉ざすわ。」

「良いじゃん、別に。あ、眼鏡は外しといてね。」


「これ跡部でええやん!」

「だめ。隣の子が生徒会長だったの!あ、」




声を上げたの目線の先には跡部と、その同じクラスの女子とが並んで走ってくる所やった。それを見て、「やばい!」と焦った様子での走るスピードが上がった。こんなにだるがってる俺を尻目に。






「俺さっき100メートル走ってしんどいのに」

「もういいよ。あたしがひっぱるから」





その瞬間に俺の腕に再び圧力がかかり、体が前にひっぱられた。少し前のめりになった上半身のバランスを保ちながら前のを眺める。少し息が上がって揺れる肩、首元には汗。ここまでされたら頑張るしかないやろ、男として。























「忍足、ありがとう。」



予想外の場面で体力を使ってしもたと地べたに座り込んでいると首筋に冷たいものが触れた。振り向くとが立っていて、片手で持っていたペットボトルのスポーツドリンクを俺の手に握らせた。






「1番になれた。跡部にも負けなかったし」




満足そうに微笑むに、おおきに。とお礼を言いながらドリンクを受け取る。冷たい水滴がついていて、が今買ってきたばっかりなんが解った。





「”カッコイイ男子”とか、先に跡部を借りてもたら良かったやん。」

「良いの、こういうのは好みの違いも混じるから。」

「お前なにげに失礼やな。」

「でもあたしはみんなが納得すると思って忍足にしたんだけど。」




の言葉に素直に頷けんでおったけど、俺の反応もさして気にしていないようには笑顔で話し続ける。












「でも良いじゃん、これでうちのクラスに一点入ったんだから。あ、忍足リレーでるんでしょ?頑張ってね」


「ああ、うん。はいはい。」


「なんだかんだでやる時はやるんだもん、忍足」



カラカラと笑いながらそう言って、は駆け寄ってきた女子の方へ行くために俺に背中を向けた。これで俺がリレーで手抜きできんようになるんを解ってそんなこと言うてんのか。





どうやら俺は本日三度目の競技は本気を出さなあかんらしい。来たるべき午後のリレーに備えて、のくれたドリンクを口に含んだ。









秋晴れの空に








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千秋さんに!マシュデリより5年間の愛をこめて!ヒナ