放課後の委員会の集まりは、真面目な委員長が淡々と単純な説明を進めるだけで、教室の隅に座る先生でさえ気怠さを隠せない。
毎月一回行われるこの集まりは何のために行われているのかと誰もが不満を持って、真面目に参加しているふりをしててもみんな意識は別の場所だ。

















「でさー」













この場をわきまえたトーンで、でもくすくすと弾んだ声が後ろの席から聞こえてくる。遠慮がちに、楽しさを含んだその声の主は二年生の切原くんのものだってことはすぐ解る。もう一人はあたしと同じクラスの丸井ブン太だ。
丸井ブン太はあたしの隣の席に座るはずなんだけど、切原くんの隣に座ってさっきから二人でこそこそ雑談をしてこの退屈をしのいでいるみたいだ。丸井ブン太はそれほど話すわけじゃないあたしより、同じ部活の後輩で仲の良い切原くんといた方が楽しいんだろう。





話す相手もいないあたしはといえば、先生の話に集中するわけでもなく自分の背中に、つまり後ろの二人の会話に神経を集中させてる。
















「で、昨日のメールで言ってたことなんすけどー」

「おー、今度の日曜のことか?」

「そうっす。っていうか途中で無視しないで下さいよ」

「わりー、テレビ見てた。」

「あれっすか?新しく始まったドラマ?」

「ちげーよ、弟とアニメ見てた。」

「えー、ドラマ見た方が良いっすよ。出てる女めっちゃ可愛いっすよ」

「名前なに?」

「なんだっけな」
















後ろの二人のごく普通の男子の会話に、自分の携帯を取り出して受信ボックスを開いてみても、昨日赤也くんからあたしの携帯に届いたメールはたった3通だ。
あたしが考えて考えて送ったメール(例えば「今何してるの?」とか「部活大変じゃない?」とか)の返信は「うん」とか「そうっすよ」といった短いもので、あたしが送った4通目にはもう何も返ってはこなかった。






昨日やってた新しいドラマはあたしの家でも流れてたけど、その4通目を送った後は切原くんの返信を待ちながらだったので意識はずっと鳴りもしない携帯に集中しっぱなしだから、ドラマの内容は全く覚えていない。
ただ同じ画面の前であたしは携帯を握りしめて「ランニングでもしてるのかな、お風呂入ってるのかな、寝ちゃったのかな、明日にはメールくるかな」なんて思っていたあたしは、たった今の二人の会話に切原くんがメールを放り出していた事実に打ちのめされるようだった。














後ろを振り返って、「そのドラマあたしも見たよ」なんて二人の会話に混じる勇気もないし、真っ直ぐ前を見て話を聞いて興味なんて全然ないふりしながら意識は背中に集中させている。
あの面倒見の良いマネージャーの女の子だったらあたしみたいに黙ってないできっと、「二人ともうるさい!ちゃんと話聞きなよ」って叱りつけて二人はばつの悪そうな顔をして、それでも少し嬉しそうに顔を見合わせるんだろう。









そう思っても、あたしはただただ二人の言葉を一つ残らず聞き取れるように耳をすませて、切原くんはああいう女の子が好きなんだとか、そういうことに興味があるんだとかを必死に頭の中にメモしていく。勇気を振り絞ってメールアドレスを聞いたくせに挨拶もうまくできないし、切原くんにとってあたしは「つまんないメールを送ってくる先輩」という認識なのかも。







でもやっぱりこんなに近くにいる切原くんに笑顔で話しかける勇気も度胸もあたしにはない。今あたしが振り返れないように、この想いも切原くんの方へなんてではなく、見当違いの方へ向かっているみたいだ。
振り向いてみようかな、でも嫌な顔されたら嫌だしな。そんなことをぐずぐずと主ながら、委員会の議題は進んでいく。あたしは窓の外を眺めるふりをしながら、こっそり横目で楽しそうな切原くんを盗み見た。







片想い、進退きわまる


















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マリエさんに!マシュデリより5年間の愛をこめて!ヒナ