an indulgence






2月14日、あたしは彼氏の長太郎に大きな大きなチョコをプレゼントした。
長太郎は相変わらずの犬を思いださせる笑顔で嬉しそうにしていた。
ただその日から、やたらと長太郎がそわそわしている様な気がする。わかりやすいな、ホワイトデーのお返しを迷いに迷っているのだろうか。長太郎が「、なにか忘れてない?」と何回か聞いてくるのを、あたしは「あ〜携帯カバー買うの忘れてるなあ☆」と個人的に欲しいものをさりげなくもなくアピールしてみた。



そして、3月14日の今日。世間ではホワイトデー、でもあたしにとっては大切な彼の誕生日。携帯カバーを買ってプレゼントしてくれるだろう彼に、同じく携帯カバーを買ってプレゼントするつもりでいた。







「はい、。この間はチョコレートありがとう。」



朝、学校に着くなり朝練を終えた長太郎があたしにピンクのかわいい紙袋を差し出す。あ、ここ最近人気のお店だ。



「ありがとう。あたしもね、はい、誕生日プレゼント。」


あたしも手に持っていたプレゼントを彼に渡す。すると、長太郎の表情が一気に固まった。あれ、何?普通なら、鼻水たらす勢いで喜ぶのに。嬉しさで何も言えない感じ?




「………嬉しいな、ありがとう。」



数十秒後、長太郎はやっと絞りだした感が滲み出るありがとうを言って、無理に作った感の否めない笑顔になる。なになになに何で?



「え?何?なんか気になるの?」

「そんなことないよ。」

「でも、明らかにテンション下がってるよね?」

「違うよ、今日の朝練が大変だっただけだよ。」




ほら!もう授業始まるよ!早く行かないと!という長太郎の勢いに押されて、あたしは仕方なく自分の教室に入った。

なんなんだろう、プレゼントもっと違うやつ欲しかったのかな。でも開けてもないしなあ、もしかして欲しいやつってもっと大きいサイズだったのかしら…バイオリンとか……無理だけど…







長太郎の様子がおかしい原因がわかったのは、その後の4時間目、選択授業が日吉と同じ古典になった教室でのことだった。




「今日の朝練大変だったみたいだねー。長太郎に聞いたよ。」


あたしがそう声をかけたら、日吉くんは変な顔をした。




「いつも通りだったぞ。宍戸さんとやってる変な特訓に比べたら大したもんでもないだろ。」

「うそ。朝あった時、変だったから、聞いたら朝練大変だったっていってたよ。」

「変なのはいつもだろ。」



なんなの日吉くん、長太郎のこと変って言いすぎじゃない?次期部長なんでしょ?だ、大丈夫かな長太郎…。



「でも本当におかしかったんだよ。誕生日プレゼントあげたのに全然嬉しそうじゃなくてさ、いつもならひくくらい喜ぶのに。」

「それだろ。」

「え?」

「原因。鳳の誕生日、先月の14日だぞ。」



日吉が机の上に教科書とノートを出しながら冷静に言った。
その古典の授業は死ぬほど長く感じました。






「長太郎!」


4時間目を終わるチャイムが鳴ってすぐに教室の扉をあけたあたしに長太郎はじめ、みんなの注目が集まる。




「長太郎…。あたし勘違いしてて…誕生日、今日だと思ってたの。」



あたしはすぐに長太郎の席に行って、彼の顔を真っ直ぐ見つめた。
「でも、どうして言ってくれなかったの?」そうたずねようとした言葉よりも先に長太郎が口を開いた。



「俺の誕生日、今日だよ。」

「………。」



彼の目はまっすぐあたしを見ている。その瞳には一点の曇りもない。
そして、「大丈夫、今日だから。」ともう一度、念を押すように言った。




「え?違うよね?先月でしょ?今日じゃないよね?何が大丈夫なの?」

「いや、今日だよ?何言ってるの?だって今日プレゼントくれたじゃないか?」

「あ、あやまるから…!」





その後も長太郎は頑として”俺の誕生日は今日”を譲らなかった。
あたしはそれが”怒りの表れ”なのか、それとも”いきすぎた優しさ”なのかの判別がつかなくて、ひたすら謝りつづけた。ごめんなさい、来年は絶対忘れないから。本当、来年はちゃんと2月14日に全身全霊で祝います。ほんと許して。



来年までには長太郎の誕生日が2月14日に戻っていることを切実に願います。一ヶ月おくれの誕生日を公言する彼の携帯のカバーが、あたしのあげたやつに変わっていたことが、唯一の心の救いです。




------------------2012.03.14
ごめんね長太郎、ハッピーホワイトデー!