「うわーもう最悪やー。」


3月17日、せっかくの誕生日なのに、主役の謙也くんはものすごーく落ち込んでいる。彼の弱音に相槌をうちながら、あたしは手元の携帯でメールの文章を作成する。
















謙也くんの誕生日。クラスメイトはみんなでドッキリをして、彼を祝おうと申し合わせた。作戦はこう。

昼休みに、謙也くんが無駄な発言をする(いつも通り)→それに白石がばちギレする。もう、見たことないくらい、キレる。→謙也くん、ドン引き。


あの白石がきれると言うだけで、びっくりだろう。からの、ハッピーバースデー!どっきりでした!みたいな流れだ。一週間前から、謙也くんがいない合間をぬってみんなで計画を練った。謙也くんは単純素直だから、完璧な計画のはずだった。






ところが、



「おはよー!今日おれの誕生日やで!みんなどうやって祝ってくれんの?サプライズとかかー☆白石あたりがキレるタイプとか言わんといてや☆」





朝、教室に入るなり、謙也くんはこれほど勘が良くて空気の読めない馬鹿っていたんだーってくらいの爆弾を投下した。
あたしは自分の席に着きながら、ニコニコと笑顔がまぶしい自分の彼氏と、凍りつくクラスメイトを眺めていた。


そして、放課後にテニス部の後輩の財前くんに「謙也さん、クラスのサプライズどうでした?昼休みにやられたんでしょ?」と聞かれ、事情を知った謙也くんは、大いに落ち込んでいる。そんな帰り道。








「ほんま俺、最低やわーこんなん、恥ずかしくてNSC入られへん」

「え?謙也くん、NSC入るつもりなん?」

「当たり前やろ!俺は笑わせれる医者になるんや!」

「医大行き…。NSCやったら、なれても健康オタクの芸人やで。」

「ええ、それやったら白石とカブってまうやんけ!」





ていうか、白石も芸人になるの?とか思いながら、あたしはメールを送信し終わって、携帯をかばんにしまった。あたし達は歩き慣れた道を通り、謙也くんの家に着いた。





「結局、みんな冷たい目してたし。最悪の誕生日やったわ。あの白石でさえ、俺と口聞いてくれへんかったもん。、お前だけでも俺を祝ってくれ。」

「うん。」


謙也くんが玄関先の門を開けて、あたしを招き入れる。いつもより、スピードも落ちているようで、仕草もとろとろしている。
で、玄関の扉の鍵をあけて、家に入ろうとした謙也くんの手が止まった。






「うわっ、びっくりした、お前ら…何、」




謙也くんが言い終わる前に「ハッピーバースデー!」と複数の声が揃って響き渡った。
忍足家の玄関には白石はじめ、クラスメイト、テニス部の部員でぎゅうぎゅうになっていた。




そう、謙也くんのKYくらいで、めげるあたし達ではないのだ。
彼がやらかした後、ごく内密に新たな作戦が練られた。今日一日はできるだけみんなで冷たい目をして、彼を落ち込ませる。放課後、用事のないメンバーは謙也くん家集合。おばさんへの伝達もばっちりだ。

そして部活で財前くんにああやって言って貰うようにしたのだ。財前くんは「何で俺がそんな面倒臭い…」とぶちぶち言っていたけど、しっかり任務を全うしてくれた。






「お、お前ら、全部仕掛けてたんかい!」



どん底から、幸せの絶頂に上りつめた謙也くんの目は、自分ちの玄関にも関わらず感動でうるっときている。



「当たり前やろ。全然気づかんかったみたいやなー」


白石が昼間とは打って変わってニコニコと微笑んでいる。
部活中は「聞いたか?小春」「うん、芸人として信じられへんわー。」と口を押さえてヒソヒソしていた小春ユウジも「冷たくすんの、辛かったわー」「小春は優しいからなー」と掛け合いをして、銀さんも「おめでとうさんやな」と言いながら、人を騙してしまったことにちょっと心を痛めている。



「謙也、めっちゃおめでとうやでー!」「めでたかねー・」
金ちゃんと千歳も笑顔でお祝いの言葉をのべている。まあ、この二人はネタバレしちゃいそうなので、何も知らされないまま、謙也くんの家に連れてこられたんだけど…。





「うわあ、ほんまみんなありがとうなあ」


と謙也くんは始終嬉しそうにしていた。その後は謙也くんの家でケーキを食べて、みんなでお祝いした。






「財前、すっかり騙されたわ。そんなんできるようになったんか!」

「はあ。」

「お前もNSC行っても安心やな!」

「なんで謙也さんって、NSC行くん前提なんすか」




あたしは謙也くんに誕生日プレゼントを用意するのを忘れていたのだけれど、みんなに囲まれた彼がすごく嬉しそうにしているのでまあ良いか、と思った。今度、医大受験の参考書でも買ってあげよっかな。







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3月17日ってまだ学校あるのかな。
こまかいことは気にしない!謙也くんおめでと!