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さむーい冬が過ぎた。跡部くんからホワイトデーのお返しにと豪華なプレゼントも貰い、あたしの気分もお昼の日差しも明るくなっていた今日この頃。 「はっくしゅん」 あたしの隣で今日の練習メニューを確認していた跡部くんがクシャミをした。 「…………クソ」 その後に、跡部くんは小さく下品な言葉をつぶやきながら鼻を擦った。 跡部くんは上品そうに見えて、意外と汚いことを言ったりする。大きな口をあけて「ハーハッハッハ」って笑ったり、試合で対戦相手の名前を大声で叫んだり。 そんな跡部くんが最近よくクシャミをしている。今だって授業を終えた跡部くんが部室に入ってきてから5分、連続で3回目。目を擦っている跡部くんにあたしは聞いた。 「跡部くん、風邪?」 「ばーか、噂されてんだろ。」 もう一度、「クソ」と言って跡部くんは鼻を擦った。「調子悪くてもそういうこと言えるんだね。」と呟いたあたしを一睨みしてまた、ハクション!と大きなクシャミをした。 「それ、花粉症やで。」 それまで隣であたし達の会話を黙って聞いていた忍足くんが、うんざりしたように言った。忍足くんは大きなマスクで口元を覆っていて、眼鏡の奥の目が真っ赤に充血して潤んでいる。 「忍足くんも花粉症?」 「せや、見たわかるやろ。」 さも辛い、といった様子で話す忍足くん。 なんだか声も変な感じで、いつも低いテンションがさらに低くなっている。 「だから忍足くんって伊達眼鏡?」 「いや、違う。伊達は元からや。てか、出会った頃から今まで全部の季節、眼鏡やって知ってるやん、自分。」 辛くても、忍足くんのツッコミは健在なようで、マスクの下からくぐもった低い声が聞こえる。隣で跡部くんがまた目を擦りながら忍足くんに話かける。 「それで、俺様も花粉症だってのか?」 「鼻詰まるし、くしゃみでてるやろ?」 「ああ。」 「目のここんところ、めっちゃ痒くない?」 自分の目頭の所を指して聞いた忍足くんに、跡部くんが「ああ。」と2回目の返事する。 「のども痒いし痛なれへん?」 「そういえばそうだな…。」 跡部くんが自分の喉を押さえながら呟く。あたしが「熱はないの?」と聞いたら、「ああ。喉と目と鼻だけだ。」と答えた。 「去年は平気だったのにね。」 「先週あたりからだな。」 「それ絶対、花粉症やって。しかも今日はめっちゃ花粉多いらしいで。」 「そうなんだ、跡部くん花粉症なんだ。」 「練習めっちゃ辛いわ。マスクしながらするわけにもいかんし。今日は室内にせーへん?」 「残念だが、室内コートは女テニに貸すとさっき約束しちまったしな。」 跡部くんは少し考えて、とりあえずマスクを用意させるために樺地くんを呼んだ。 でも樺地くんもこれから練習あるし、暇なあたしが行くよ。と練習に行く跡部くん達を見送って、あたしは部室を出て保健室に行った。でも保険医の先生がもう帰ってしまったのか、保健室は開いてなくて駅前のドラッグストアまで行って一番高いマスクを買った。 帰ってきたら、やっぱりみんな外のコートで練習していた。外での練習で跡部くんは鼻と目が痒そうで、かわいそうだった。集中していると少しマシらしいけど、何回かクシャミもしていた。 忍足くんはもっと酷いらしくゼイゼイ言ってるし、ちょっとボーッとしていて岳人くんに心配されていた。そんな二人のことを宍戸くんは持ち前の根性論で「だらしねーなー!」って言いながら自分も鼻を擦っていた。 練習が終わり、買ってきたマスクを跡部くんに手渡す時に「おまじないで内側にちゅってしてあげようか?」って冗談で聞いたら、3秒ぐらい沈黙した後に「いや、いい。」と遠慮された。ちょっと迷ったんだと思う。 「あんまり目、擦らない方がいいよ。」 帰り道にやっぱり目と鼻を擦っている跡部くん。あたしに「ああ…」と返事はしたものの、まだ痒そうだったので鞄を持っていない方の手を握ってあげて、跡部くんの両手が使えない様にした。辛いのに車を呼ばずにあたしと一緒に歩いて帰ってくれた跡部くんが少しでも楽になれますようにと思いながら。 翌日の跡部くんは、クシャミもしないし目も赤くないし、症状はすっかり良くなっていた。理由を聞くと、ちゃんとお医者さんに相談してぴったりの薬や洗浄液を処方して貰ったらしい。跡部家の力をもってすれば、一晩で有能なお医者さんにみてもらうことができるみたい。クシャミもかゆみもピタッと無くなって、いつもどおり自信満々で元気になった跡部くんに、クシャミしてるの可愛かったからちょっと残念に思ったのは内緒だ。 そんな跡部くんに、忍足くんは「そうか、俺も病院行こ。」と目から鱗だというように明るい顔をした。その反応に「何言ってんだ?お前の親父に処方してもらったんだぜ?」と跡部くんはお得意の怪訝そうな顔をした。ああ…そんなこというから、忍足くんがショック受けた顔になったじゃん。 「ええー親父…。」 「お、忍足くんも帰ったら薬もらいなよ。」 「そうするわ。もう今日は鼻ごっつ詰まるし頭まわらん。頭痛もするねん。」 症状の深刻さを伺わせながら、忍足くんがまたマスクの下から声をくぐもらせながら言った。多分、目も真っ赤なんだろうけど眼鏡と顔にかかった前髪、今日はいつもの倍の猫背で全然見えない。 「忍足くん、もともとあれなのにマスクまでしたらやばいよね。」 「せやねん、伊達眼鏡の上にマスクまでしてもうたら、めっちゃ怪しなんねん…って誰が怪しいねん!」 忍足くんはノリツッコミも健在なようです。 そんな忍足くんのために、その日の練習はオール室内コートでした。やっぱ跡部くんって優しい。 --------------------2012.04.03 男子ってあんまり病院行かないよね。 |