「ねぇ、忍足。髪型変えたんだけど」


「うっそやん、めっちゃ似合ってるやん!」


「このネイルの色、馴染んでてめっちゃ可愛くない?」


「ほんまや、めっちゃかわいいやん。」


「私、ちょっと痩せたんだけど。」


「まじで?お前そんな可愛なってどうすんねんな。」














       .











「……ねぇ、忍足」


「ん?」


「髪型、どう変えたか、わかる?」





私が静かにそう言うと、忍足はやっと携帯の画面から顔を上げた。
眼鏡の奥の瞳でしばらく私を眺めて、少しだけ首をかしげた。






「髪染めたんやろ?」


「違う。前髪切ったんだけど。」








さっきの調子の良い台詞とは打って変わって、「前髪とか…わからんわ。」と呟いて、手元の携帯に視線を戻した。髪を染めた要素なんてどこにもないよね?と思うのと同時に、私の中にいらーっという気持ちがわき上がってくる。






「結構切ったよ?っていうか、忍足以外はみんな気付いてくれたよ?」


「何やねん、みんなて。誰と誰や。」


「岳人も跡部も宍戸も滋郎も滝も、みんなだよ。なのに、彼氏は気付かないってどういうこと?」








私の攻める様な言葉に、忍足はもう一度携帯の画面から視線を外して大きなため息をついた。朝の7時前に起き出して朝練をし、6時間の授業をみっちり受けて委員会にも顔をだして、今からまた練習だというのに、何を面倒臭いこと言うてんねん。というのが聞こえてきそうな顔だ。








「お前な、そんな前髪切った切らんって外見のことばっかり言うてたあかんで。」


「髪きったって言ったら、普通は私の方見るでしょ?」


「見たやん、見たけど解らんかってん。」


「じゃぁ、私の今のネイルは何色?」


「えーとな、赤やろ?」









赤が爪に馴染む色か?と心の中でつっこみながら、忍足を睨んだ。
ちなみに私の爪の色はベージュピンクだ。忍足が爪の色を当てるにあたって、やっぱり私の爪先をちらりとも見ずに赤だと即答したのが、彼が私を鬱陶しく思っていて適当にあしらっているのが解る。そういうのを隠しもしないなんて。



私が怒っているのもいつものこと。とでもいうように相変わらず、彼は手元の携帯の画面を見つめている。その少し猫背の姿を見つめながら、もう少し上手くやってくれても良いのに、と思う。
別に不器用って質でもないのに、適当にあしらうならあしらうでもう少しこっちの気分を良くさせてくれたって良いじゃん、と。付き合い初めのころはこの調子の良い言葉にちゃんと大袈裟な感情も乗っていて、解っていても「えー本当?」なんて良い気分になれたのに。









「あ、ちゃん。」




私がこれ以上言っても無駄な気がして、手に提げていた鞄を持ち直した時、それに気付いたのかただの偶然か忍足が引き留めるように私を呼んだ。





「何?」


「前に着てたスカートあるやん。」


「前?ああ、紺の?」


「そう。あれめっちゃ好みやったし似合ってたから、次のデートはあれ履いてきてな。」




前に履いてた時はそんなこと、言わなかったくせに。
なんだかなぁと思いながら、それでも私は悩みに悩んであのスカートを買って良かったと思ってしまうのだ。




「はいはい、部活頑張ってね。」


「お、今日は一緒に帰らへんの?」


「んー友達がコスメ探すのついてきてって。私もついでに新色とか見に行こうと思って。」




「じゃぁ、明日ね。」と自分の鞄を肩にかけて、背を向けた私に、忍足が「おーキレイになってきてやー。」と返事をくれた。












--------------------2012.04.09
忍足は本気だせば気づけるよね。