昼休みの購買はごった返していて、あたしは人と人の間をくぐって焼きそばパンを買った。おばちゃんが新作のお好み焼きパンを勧めてきたけど、「それはないっすわ。」とテニス部の後輩である財前光ばりの冷たさでお断りした。でも今度、金ちゃんに食べさせてみてどんなんか見てみよかな。ああ見えて、ほんまに不味いもんは「まずい〜」って言うたりするねんもん。この間、マネージャーのあたしが作った差入れのクッキーを一口食べて「何やこれ、ぱさぱさやんー」とはき出したのを思い出していると、向こうから見慣れた金髪と大男が歩いてきた。


















「お、。おはようさん」

「おはようて千歳、もう昼やで。こいつさっき学校来たんやて。」



あたしを見るなり口をひらいた千歳に謙也がすかさずツッコミをいれる。
どうやら謙也は購買に向かう途中で、登校してきた千歳に会って一緒にここまで来たみたい。あたしの下げてる白い袋を指して「何こうたん?」と聞いてきた。




「焼きそばパンやで」

「それうまかねー」

「あ、新商品でお好み焼きパンがでてたよ。謙也たべたら?」

「えーいらん。俺うどん食べるもん。千歳は?」

「牛丼ば食おうかいね。」





偶然会ったし折角なら一緒にお昼食べようと、あたし達は食堂の隅に席を取った。
3人ともクラスは違うけれど、同じ部活で顔を合わせているのでそれなりに仲は良い。千歳は昨日部活に来ないで何してたの?とか、今日の体育で謙也と同じクラスでうちの部長の白石が活躍したとか言う話を謙也は肉うどん、千歳は牛丼、あたしは焼きそばパンをそれぞれ口に運びながらそういう世間話をした。



で、あたしがその話題を口にしたのは、おばちゃんに売れ残ったからとお好み焼きパンを押しつけられて、それを3人で分けっこして「微妙」という感想を言い終わった後。




「っていうかさ、二人ともあたしに何か言うことないの?」


突然のあたしの言葉に「???」となる二人。



「どげんしたとね?」

「何?千歳、何かやったんか?」





「あたし、髪切ってんけど。」




そう言った後に手に持っていたお好み焼きパンの最後の一欠片を口に放りこんだ。
昨日、部活が終わった後に美容室に行ったのに、この二人は全然気付いてくれない。今日は朝練がなかったから一番に会った部員なのに、自分から言い出すのも何だかなぁと思って黙っていたけど、何となく寂しくなってしまった。そこまでガラっと変えたわけじゃないけど、それなりに切ったし軽くパーマも当てたのに。


二人は少し固まって、お互いに顔を見合わせた。やっちまった感が少しでている。





「ぱ、パーマあてた?」

「そうやね、パーマ当たっとーよ」



取り繕う様に、そろって同じことを言う二人と同時に予鈴のチャイムが鳴った。







そこから5限目、6限目の授業を終え、ジャージに着替えて部室に向かうと、もうすでに謙也と千歳が先に来ていた。千歳がこの時間から部活に来るなんて珍しい、と思っていたら、6限目からここにいたらしい。じゃぁ、今日の千歳は5限目しか出席していないのか。なんて奴だ。




「謙也、白石は一緒じゃないん??」


謙也と同じクラスの白石の姿が見えないのを不思議に思って訪ねると、「何や、保健委員の集まりにちょっと顔出してくる言うてたで。」と教えてくれた。練習始まる前に今日のメニューのこと確認しときたいんやけどなぁ。




「うちん部長はなしても熱心やね」

「千歳、お前は何か委員会入ってたっけ?」

「猫委員会たい。」




「何やそれ」「にゃーと遊ぶ委員会ばい」そんな会話を耳にしながら、あたしは手に持っていた制服と荷物を机の上に置いた。



「千歳は美化委員やろ」

「お、知っとったと?」



千歳があたしの言葉に、にやりとした顔をする。
そしてあたしを見て、「あれ、…」と、少し眉を少しだけあげた。あたしはうん?と彼の方を向いて、続く言葉を待つ。何か顔に変なものでもついてるのかな…。








「髪切ったとや?」

「うっわ!千歳お前ずっる!!」



千歳のその言葉に思わず「えっ、うん」と答えてしまったあたしと、その隣で「ずるいぞ!」とまくしたてている謙也。そんなことを気にせずに、「似合うとるね、良かねー」と千歳はにこにこしている。




「おつかれやでー」


そこに、委員会を終えた白石が部室に入ってきた。あたし達を見て「なんや、千歳がこの時間におるのなんか珍しいなぁ。」と嬉しそうな顔をした。



その次に白石の視線があたしに止まって「は髪きってるやん?」と訪ねた。「そうやねん。」と答えたあたしに「よう似おてるやん。」と笑顔をむけてくれた白石。ちょっと照れる。




「さすが白石やなぁ。」



謙也が関心したように呟いた言葉に、肩に下げていたテニスバックを降ろしながら、「え?何で?」と白石が不思議そうに聞く。




「さっきそれで一悶着あってん。」

「そうばい、謙也がいっちょん気付かんけん。」

「千歳、お前もやん!ずっこいぞ!」

「俺は朝からきづいとったばい」

「お前、朝学校来てないやん!!」

「才気煥発の極みたい」






謙也の怒濤のつっこみにしらーっと答える千歳は本気なのか、わざとボケてるのか解らないね。という話を白石とした。遅れてきた財前が「あ、先輩その髪良いっすね」と珍しく素直に褒めてくれた。コートにでると金ちゃんが「めちゃめちゃええやんー!」と大きな声で手を振ってくれた。


っていうか、金ちゃんでさえ気付いてくれたのに、何であの二人は気付かへんねやろ。
ちらりとコートの隅の二人の方に目をやると、さっきの掛け合いはとっくに終わっていて謙也が千歳に新作のラップを披露していた。














-------------------------2012.04.23
にゃー委員会→千歳・仁王・海堂