「やだ亮ちゃん、その髪どうしたの!?」



朝一の学校の廊下で、短く刈られた俺の髪を見るなりは声を上げた。
まぁ当然だよな、あのなげぇ髪をここまでばっさりいっちまったんだし。

しかも前々から切ろうと思っててやったわけじゃねぇし、もちろんにも切るなんか知らせてなかったしな。「ちょっと何で言ってくれなかったの!?」という言葉を覚悟して少し身構えながら、昨日の滝との試合やその後のことをどう説明するか考えを巡らせた。






「えー絶対こっちの方が良いよ!」




でもの反応は予想してたものとはちょっと違う様で、笑顔を作って俺の頭を見上げている。その顔からはお世辞ではなく、本当にこの髪型を気に入ったってのが見てとれた。





「あたし、前から短い方が良いって思ってたんだよね」



そんで、その笑顔のままこの発言。「ちょっと待て。お前なんでそれ言わなかったんだよ」と俺が掘り下げると、は「あ、やばい」って顔をした後に開き直る様に口を尖らせた。






「えー。だって、亮ちゃん願掛けとかしてたじゃない」




「言えるわけないじゃん」と続けては自分の髪を耳にかける。
こいつ…と思いながらその耳にかかった髪に視線が止まる。あれ髪切ったか?いやでも前からこんなだったし気のせいか。
そんなことを思いながら本当に報告したかったことを言う為に、俺は「ああ、あとよ」と続ける。攻められるとでも思ってたのだろうか、違う話題を持ち出した俺には意外そうな視線を向けた。





「俺レギュラー戻ったから」




その言葉にの表情が嬉しそうなものに一転する。
最近は部活が忙しくて文句言う顔しか見てなかったからか、こういう顔は久しぶりかもしれねーな。





「えーほんと?良かったね、練習した甲斐あったね」

「まあな」

「あたしも遊ぶの我慢した甲斐あったね」

「そうだな。でもこれからも我慢な、関東あるし」




俺がここぞとばかりに釘をさすと、はまた「ええ」とげんなりしたような顔をした。ほんとよく表情変えるやつ。





「動物園行くって行ってたのは?」

「引退してからな」

「…じゃぁ全国の決勝戦まで無理だね」



相変わらず気の乗らなそうな顔をして呟く。でも口では俺ら氷帝が決勝戦までいくのが当たり前って宣言しやがる。
引退したってテニスはやめねぇし、どうせ相手なんてしてやれねーとは思ってるけど、パンダぐれーは見に行ってやろうかな。後で忍足に夏にやる映画情報も聞いとくか。






「その代わり、終わったら遊んでよ」




俺の心を知ってか、そう言いながらはもう一度髪を耳にかけた。やっぱちょい短くなってるよな?






「お前髪切ったのか?」


俺が訪ねるのとがはっとしたように顔を上げたのは僅かの差だった。
そのまま俺の顔を数秒見つめた後に「え?どうしたの!?」と大きな声を上げた。




「あ、切ってねーのか?」

「違う、切ったよ。ちょっとだけだけど」

「じゃぁなんだよ?」

「だって、髪そろえたくらいで亮ちゃんが気付くなんて!」





信じられないとでもいうように声を上げたは俺が口を挟む間もなく「どうしたの?」を繰り返していた。そんな態度に俺がイラッとしてるのなんか関係ない様に、はこっちを見つめてくる。そろそろ周りの目も気になってきた所で俺が「落ち着けよ」とたしなめたら、は頷いて深めに息を吸い込んだ。




「どうしよう、嬉しい…」興奮冷めやらぬまま呟いたの目が心なしか潤んでいるのは気のせいか。もともとのこいつの性格か、それとも俺の日頃の行動が悪いのか。
「やればできるじゃない!」と笑顔をつくるに「あれ?こいつ俺がレギュラー戻ったって言った時より喜んでねぇか?」と思いながら、俺は嬉しそうに隣にきたの腕を受け入れた。















この調子なら当分テニス優先してても許してくれそうだな。











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宍戸が気付くと感動される。