俺と同じクラスのちゃんは超かわいい女の子だ。どのくらいカワイイかっていうと、世界中の女の子の中で一番かわいい。どこがカワイイかっていうと、全部。













俺はちゃんのことが大好きで、今回のクラス替えでちゃんと同じクラスになれたのはマジでラッキーだ。もともと可愛い子だなーと思ってたんだけど、決定的だったのは3年3組になってすぐの頃、学校を休んだ亜久津に誰かが大事なプリントを届けないといけなかった日の放課後、先生が頼んだのは亜久津と家が近所の女の子。でもその子は亜久津のことが怖かったみたいで亜久津ん家に行くのを渋ってたんだよね。俺はそれを横目で見ながら、亜久津ん家は俺と反対方向だし部活の後に行くのはちょっとつらいな、とその役目を引き受けるかどうか迷っていた。そこで名乗りを上げたのがちゃん。







「あたしが行ってくるよ、そっちの方向に用事あったし」






と、プリントをひらりと受け取って笑顔で教室を後にした。
それだけでも充分好感度は高かったんだけど、俺が放課後の部活を終えての帰り道に偶然ちゃんと会った。「あ、千石くん今帰り?お疲れ様」と言うちゃんもまだ制服を着て鞄を持っている。あれと思って「ちゃんも?」と聞くと頷いて家がこっちの方なんだと教えてくれた。そうなんだ、俺と家近いじゃん。ラッキー!







「でも何でこんな遅いの?部活やってた俺と同じぐらいじゃん」      

「うん、亜久津くんの家にプリント届けてたの。でもお姉さんがお茶とケーキ出してくれて、ご馳走になっちゃった」

「あれ、ちゃん用事あったんじゃないの?」






俺のつぶやきに、ちゃんは「あ」という様な顔をした。ちょっと自分の口元に手をあてて考えた後に、俺の方に視線を戻した。







「千石くん、内緒にしててね」









その困ったような笑顔に俺のハートは打ち抜かれた。
もちろんちゃんの優しい嘘は俺一人の秘密だ。ちゃんが可愛いうえに優しいってことは大声で叫んでも良いくらいだけど、なんせライバルも増えそうなのでやめといた。
この一年で何とかしてちゃんと一番仲の良い男子になりたいと思っている。仲の良い、っていうのはもちろんお友達以上の、という意味だ。







でも、当のちゃんは可愛いだけに手強い。
「えー?ラッキー?千石くんやばいねー」と輝くような笑顔をみせて、それに俺がどきーんとなっている間にひらりと身をかわす蝶の様にすぐに他の所へといってしまう。





遊びに誘っても、「本当?いきたーい!」と笑顔を見せてくれるのに「また予定が解ったら連絡するね」とはぐらかされている。いくら待っても「いつにする?」なんてお言葉はかからないし、俺なんか眼中にないって感じ。






俺の売りのラッキーはちゃんのステイタスになんかならない。だって、ちゃんはラッキーなんかに頼らずに、可愛さで乗り切ってきたタイプだ。ちゃんは顔ももちろん可愛いんだけど、立ち振る舞いとか言うことがマジで可愛い。南なんかは「?可愛いか?」とか寝ぼけたこと言ってるけど、ほんと解ってない。でも、あの放課後の秘密やちゃんの良さを俺だけが知ってるってとこが良いよね。
そんなこんなでどうやったらちゃんの気を引けるのかと、あれこれ考えている俺にウルトララッキーがやってきた!













「千石くん!」







ある日のHRのチャイムが鳴る前、朝練を終えた俺が教室に入った瞬間にちゃんに名前を呼ばれた。こっちに来てくれるちゃんの様子から、彼女が俺が来るのを待ってたってことが解る。何、このラッキー?





「千石くん、」

「おはよーちゃん、どうしたの?」







俺がおはようと言うと、ちゃんは思い出したように「おはよう」と呟いた。あのちゃんが挨拶も忘れちゃう程、俺に会いたがってたなんてマジ感動。






「あのね、千石くん、あたし最近ずっとついてないの!」






ちゃんはすがる様な表情で俺に言った。そんな顔のちゃんも可愛い。









「昨日も遊んだ帰りに風が強い中で、踏切にひかかっちゃって、しかも踏切が全然開かないし、20分くらい待ってすごーい回り道して、やっと駅に行ったら電車動いてないし。地下鉄なら動いてるだろうと思って地下鉄に行っても、あたしがのる線だけ動いてなくて、そのまま夜まで足止めされちゃって、」




俺は「えーそれは大変だったね。」とちゃんに相づちを打ちながら俺は考える。
昨日は爆裂だか爆弾だかの低気圧で悪天候になるから、授業も午前で切り上げられて早く帰る様に指導でたよね?俺らの練習も中止になって家に帰ったのに、ちゃん遊んでたの??



他にも聞いてみたら、携帯水没させたり、財布をマックに忘れてなくしたり色々やっちゃってるらしい。でもそれ、ついてるついてないじゃなくって、ちゃんの不注意じゃん?と思ったけど、黙っておく。余計なこと言って嫌われちゃうのは嫌だもんね。








「それでね、」






一通り、話し終わったちゃんが息を深く吸って俺を見る。恥ずかしそうに髪とか触っちゃって、ええ?何?







「今日来る途中に鳩にフン落とされたの」


うつむくちゃんの触っている前髪が少ししめっている様なので、こんなに可愛いのに髪についた鳩のフン落とすために必死で洗ったんだろうな…と俺の胸はマジで痛んだよ。











で、俺はそこから携帯のブックマークしてる占いサイト全部見て、ちゃんの運勢を調べたり運気アップのアドバイスをしたよ。鞄にラッキーアイテムの岩のりを忍ばせておくと幸運アップ!ってとこは教えなかったけどね、だって好きな子が岩のり持ち歩いてたら嫌じゃん。あと、”牡羊座の彼と仲良くなれるかも!”も”射手座の男の子”に変えて、「えー俺射手座だよ、ラッキー☆」っていう会話に繋げたね。だってちゃんがヤンキーと仲良くなるのちょっと困るじゃん。ただでさえ家に上がってて、ちょっとリードされてるし。






それきっかけに、ちゃんと俺の仲は急激に近づいた。運勢についてのメールを頻繁にするようになったし「あそこの占い超有名なんだよね!今度の日曜日、一緒に行ってみない?」なんて行って、2人でデートするのにも漕ぎ着けた。
ちゃんも最初は「千石くんのおかげでほんとにラッキーになったんだよ」って感じだったんだけど、だんだん「千石くんと一緒にいると楽しい。夏の試合行くね」なんて超かわいい笑顔を向けてくれて、俺はもうテニスの練習も百倍がんばれる。




ただ心配なのはあれだよね。このままちゃんの運気が下がらなければ問題ないけど、ちょっとでもアンラッキーになっちゃった場合が怖い。千石くんと一緒にいてもラッキーじゃないじゃん、なんて言われたらどうしよう。
だから俺は突然の雨に備えて折りたたみ傘を持ち歩き、電車の運行状況の有料アプリをダウンロードして、一緒に外歩いている時は鳩とやつがちゃんの頭にフンしないように最新の注意を払わなきゃなんない。まぁ、可愛いちゃんの為ならそんな苦労もなんのその、だけどね。今日もちゃんは俺に笑顔で「今日ラッキーだったことはね、」という報告をしてくれる、あーこんな可愛い女の子と仲良くなれるなんて俺って超ラッキー。

















-----------------2012.06.13
かわいい子って書くの難しいね。