「え、なんでいるの?」 あたしは学校へ行こうと玄関の扉を開けて、家の前に立っていた人物に背筋が強ばる。どうして、朝っぱらからここに。 「恋人同士が一緒に登校するのに理由はいらないと思うけど?」 そう笑顔でいった鳳長太郎は、あたしと同じクラスのテニス部で大活躍中の女子に人気の男の子なのだが、あたしがどうもあの笑顔はうさんくさいなぁと思ってた子だ。その鳳くんはなぜか最近、あたしと自分が恋人同士だと主張し始めたのだ。 「いや、恋人じゃないし」 「さ、行こう」 顔をゆがめて否定したあたしの言葉をあっさりと無視して、鳳は相変わらずの笑顔であたしに右手を差し出す。なんだそれ、王子様のポーズか。 あたしが冷めた目で鳳の仕草を見ていたら、笑顔で「手、繋ぐんだよ」と言われた。まじか。 「つながないよ」 「照れなくていいよ」 「照れてないし。むしろ嫌がってるし」 「は可愛いなぁ」 「キモイんだけど。っていうか下の名前で呼ばないでよ」 「しょうがないなぁ」 鳳がその言葉を発した直後に、あたしの足は地面から離れ、視界は90度まわった。 どうやらあたしは、鳳に”お姫様だっこ”されてしまったらしい。 「え、ちょっと、」 そのまま歩き出した鳳の腕の中で 慣れない感覚と地面に足のつかない恐怖にあたしはじたばたと暴れた。 (こいつ、このまま学校行く気だ!!) 「、痛っ!」 「が暴れるからだよ?」 鳳は暴れたあたしの体をおもいっきり力をこめて抱きかかえながら言う。 どうしよう。なんか怖い。 「つなぐ!手、つなぐから下ろして!!」 恐怖心により、あたしがそう叫んだら、やっと下ろしてくれて、手を握られた。(というか指を絡められた)(恋人つなぎ) 「はホントに素直じゃないなぁ、僕がここまでやらないとダメなんだから」 「真剣に嫌がってんだけど」 「こんなに僕に頼ってばっかりじゃダメだよ?僕だっての側にいられない時とかあるんだから」 「・・・・・・・」 はたから見れば、仲良く手をつないで登校する男女(嫌だ!)かもしれないけど、私達の会話は全く噛み合っていない。 そして、学校に近づくにつれてあたしの気持ちはどんどん重くなってくる。 もしこんな所を全校生徒に見られたりしたら、きっと付き合ってるとか勘違いされるに決まってる。 (勘違いは隣の変態だけで十分だ。) 「ねぇ、そろそろ手離してくんない?もうすぐ学校だし。もう満足でしょ?」 ため息をついてあたしが言う。なるべく冷静に。相手のペースにはまってしまわないように。鳳だって同じ人間なんだから、話せばわかる。絶対に。 でも鳳は、もはや予想通りというのか、少し照れたようにはにかんだ。 「今日はみんなに発表しちゃおうよ、僕たちのこと」 「・・・あたしたちの関係に発表することなんかないじゃない」 「隠して付き合うのもドキドキして良いけど、に変な虫がついたら嫌だから」 (ええー、何これー) あたしが何を言っても伝わらない鳳にウンザリして、手を振り払って逃げようとしたら、鳳は肩に掛けていたスポーツバックのひもの所を素早くあたしの首にかけやがったので首が絞まって逃げられなかった。 「あんまり聞き分けがないとさすがの僕ものこと嫌いになるよ?」 「え?ほんとに?」 鳳の言葉に、あたしの心に一筋の希望の光が差す。ああ、あたしの対応間違ってなかったんだ。どんな人間にも常識的な対応が一番だよね。 「なーんて、嘘だよ☆」 (あ、こんなに突き放された気持ちになったの、初めてだわ。) 逃げないように手をしっかり握られたあたしはそのまま氷帝の門をくぐるほかに道はなく、氷帝の笑顔が可愛い男子ナンバー1(本人曰く)のスキャンダルは一瞬で学園中を駆けぬけた。鳳は「俺のサーブ並みだ」とか言っていて、「うまいこと言えてないから」とたしなめると「俺のテニスしてる姿みたことあるんだね」と嬉しそうにしてた。お前、昨日の放課後に帰宅しようとしたあたしの足下にあの剛速球打ったの忘れたのか。 教室につくと、みごとにみんなから質問責めにあってうんざりする。 「え?何?うん、付き合ってるよ、もういいよ・・・付き合ってるよ鳳と。」 興味津々のクラスメイトに面倒くさくなって、投げやりになって投げやりに答えていたら、「内緒にしようって約束したのに・・・しかたないなぁ、」って鳳が笑顔で言った。まじかよ、ありえない。 --------------------------------2005.09.29 鳳=腹黒変態。の公式 2010.03.07再録。前タイトル→「ありえない」 |