「あれ?、今帰りか?」 校門を出ようとすると、忍足に会った。 のっそりと自転車を押している姿は、妙に似合っていた。 「うん、補習で遅くなって・・・部活終わったの?」 「あー、せや。おつかれー」 忍足は興味なさそうに言った後、もう陽が落ちてしまった空を見て思いついたような顔をした。 「もう暗いから送ったるわ」 アタシはその申し出に少し驚いた。 特に仲が良いわけでもないアタシにそんなことを言ったのは、面倒くさがりの忍足らしくなかったからだ。 「え、良いよ、別に」 「の家近くやろ?歩いて帰るんやったら危ないやん」 ええやん、ええやんと良いながら忍足はアタシの家の方向へ歩きだした。 アタシは仕方なく、後に続いた。 「ごめんな、荷台か六角つけといたら2ケツできてんけどなー」 「あってもしないよ、体重ばれるし」 「女の子はみんな軽いで」 そんなたわいもない会話をしながら、歩く。 アタシはチラリとハンドルを握る忍足の手を見る。 薬指にはシンプルな指輪があって、忍足の大切な子の存在を示している。 名前も顔も知らない子。 「男は意外にもポッチャリした子が好きやねんて」 「女のいうポッチャリと男のいうポッチャリって絶対違うよ」 「そうなんかなー?まぁ、男モテと女モテも全然ちゃうしなぁ」 会話とは裏腹に アタシは緊張していた。 だいたい、何故 忍足はすごく仲が良いってわけじゃないのにアタシを送ってくれてるんだろう? 普通なら「気ィつけてな、また明日」でしょ? 体育祭でもっと遅くなった時はそうだったし。 「女の子は同じ子ばっかりモテるもん。」 「せやなぁ、わりと決まってくるもんなぁ」 「あ、でも跡部はみんなにモテてるよね」 アタシは時々、チラチラと忍足の薬指に視線を移していた。 ・・・どんな子なんだろう? 会話がとぎれて夜道には自転車の車輪のカラカラという音だけが響いている。 本当はこの雰囲気になるのがすごく怖くて、一生懸命話してたけどもうほとんど家の前だった。 「家、ここなの」 「ぁーそうなん」 忍足は少し顔を上げてうちの家を見た後に、また興味なさそうにコメントした。 「ありがとう、送ってくれて。方向反対なのに」 「ん?ええで、ええで。チャリやからスグやし」 忍足は自転車を180度方向転換して、またがった。 そしてアタシの顔を見て、 「、前髪にゴミついてんで?」 と指さした。 「え?どこ?」 「ちょぉ待ってみ、取ったるわ」 忍足はアタシの前髪に片手をかけ、目を凝らすようにアタシの前髪に顔を近づけて そのまま、アタシの唇に自分の唇を持っていった。 呆然とするアタシにニコリと笑って「ほな、」と言い残すと 忍足は自転車に乗って去った。 こうしてアタシのファーストキスは奪われたのだ。 -------------------------2005.10.08 |