雨の日の茹蛸







出掛けに聞いた午後から雨の確立80%の天気予報はみごとに当たって、もう薄暗い空からはザァザァと雨が降ってきていた。



あたしは教室を後にして下足室で靴を履き替え、外に出ようと昇降口を見ると、見慣れた背中があるのに気づいた。





「あれ、跡部なにしてんの?もう結構遅いよ?」





跡部はあたしに気づくと「生徒会だったんだよ」とぶっきらぼうに言った。




「・・・何やってんの?」






あたしがそこにずっと突っ立っている事を不思議に思って訪ねると跡部はこっちを見もせずに
「雨やまねぇんだよ」と言ったので、あたしは跡部の不機嫌の原因に納得した。


(っていうかこいつ降水率80%っつてんのに・・・)







「跡部が雨宿りとか似合わない」


「こんなのに似合うもくそもあるかよ」


「いつもの2年の子は?」


「・・・樺地は休みだ」


「ふーん、 ぁっあたしもう1つ折りたたみ持ってるから貸してあげようか?」




あたしは靴のかかとをなおしながら、いつも持っている折り畳み傘が鞄の中にあることを思い出したのだ。







「・・・・・・いらねぇ」


ところが跡部は何故かさっきよりもずっと不機嫌な声で言った。





「そう、まぁ跡部様なら車のお迎えが来るよね、」




あたしは触らぬ神にたたりなしと、大きい方の傘を広げて「じゃぁね、」と言って一歩、大きく前に踏み出した。








!」





ところが、大股で5歩くらい行った所で、跡部が大きな声で名前を呼んだ。





「ん?何?」



あたしが振り向くと、跡部は今までに見たことない焦ったような、必死な表情で叫んだ。





「お前、少しは察しろよ!」





・・・何のことだかさっぱり解らない。あたしは傘を貸すと申し出たりしたんだから悪いことはしてないはずだ。




何に怒鳴られてるのかも解らず、返す言葉も見つからないのでただ立ちすくむあたしに対してまた跡部が口を開いた。





「わざとだよ」


「ぇ、何が?」



本当に状況が飲み込めないので、近づくと跡部の顔は何となく紅かった。




「わざと傘忘れたんだよ。お前がまだ帰ってねぇの・・・知ってたし」



目線を斜め下に落として、そう話す跡部の顔はみるみる紅くなっていく。




・・・ちょっと待って、これは・・・いや、まさか・・・



あたしは跡部が言わんとせんことに想像がついてしまい、そのありえなさにかたまってしまった。







「それなのにお前は、もう一本出しやがるし」



そこで跡部は黙り込み、あたしも返す言葉がなく、2人とも黙り込んでしまった。


聞こえるのは雨がそこら中を打つ音だけだった。








「・・・とりあえず、駅まで入ってく?」



そう言ってさしていた傘を差しだしたけど、あたしの顔も真っ赤だったと思う。






「ちぃせぇ傘だな」





跡部は偉そうに言ったけど顔は相変わらず耳まで紅かったのであたしは小さく吹き出してしまい、跡部は少し驚いたような顔をした。














「明日も雨が降って、跡部がまた傘を忘れれば良いのに」


それが面白くてあたしがそう口にすると、跡部は物の見事にユデタコと化した。



--------------------------------2005.12.08 年相応の跡部様。