小さい頃、とっても小さい頃にアタシは長太郎に


「白馬に乗ってむかえに行くから、は僕のお嫁さんになるんだよ」


と言われたことがある。



たしかあたしはその時に「そんな恥ずかしい事しないでよ」って言ったんだ。










あたしの白馬の王子様





























少なくとも、あれから10年はたったと思う。





あたしはずっと、長太郎と初等部から高等部まで氷帝学園で過ごしている。




長太郎は無駄に、ホントに無駄にでかくなった。(だってテニス部の先輩がデブって呼んでた)

そう、長太郎はテニス部に入ってレギュラーを取った。昔から何でもできるやつだとは思ってたけど…



そして、成長とともにどんどんと嫌な奴になっていった。昔からろくな育ち方はしてないなーとは思ってたけど。







「あぁ、。おはよう」


笑顔で言った長太郎の両隣には、今日も可愛い女の子がいる。




「おはよう…」


あたしは見慣れた光景にうんざりしながら答えた。



長太郎はこの10年ほどの間に、みんなの王子様になった。みんなっていうか、実際は可愛い女の子限定なんだけど。

そうでない子はあのお得意の笑顔で優しく遠ざける。傷つけないように、さも自分が悪いかのように。

可愛い子はすぐに食べちゃう。
それでも奴が爽やか君で通ってるのはオーラとかしゃべり方とか計算高さとかそんな何かを持ってるんだろう。やな奴っ!








あたしはそんな長太郎に激しくムカつんだけど、クラスは違うものの奴は目立つし、あたしを見つけるとヘラヘラと笑いながら話しかけてくるので一日に3回は会って、言葉を交わす。
よってあたしのムカつきは一日、最低3回ある。腹立たしいことこの上ないので止めてほしい。



とにかくあたしは早くあんな男とは縁を切って、そういうのがまかり通ってるこの学園からもおさらばしたい!


そのために大した勉強もせずに楽々あたしの上を行く長太郎に「は努力家だよね」とか嫌みな笑顔で言われても、頑張ってるんだ。






















「あれ、なにしてるの?」


自習室で一人で勉強をしていると、長太郎の憎らしい声が話しかけてきた。

通りすがりに見つけられたんだろう。いちいち会うたびに声をかけるのは止めて欲しい。



「勉強だけど・・・」


あたしはできるだけ面倒くさそうに答えたけど、長太郎はそんな空気も察せずに扉をあけて教室に入ってきた。



「すごいね、テスト前でもないのに」


「うん」


「氷帝は大学までストレートなんだから別にそんなに頑張らなくていいんじゃないの?」




のほほんとした口調で話している(腹は黒いけど)長太郎の言葉にあたしは言った。






「あたし、外部の大学うけるの」



でもそれを言った途端、長太郎は黙り込んでしまったので、どうしたのだろうと思って顔をあげるといつもの笑みは消えていた。

そして靜かに「何で?」って言った。



こういう時の長太郎は普段ヘラヘラ笑ってばっかりいるだけに恐い。
昔、原因は忘れたけど、怒らせてしまって一ヶ月くらい口を聞いてもらえなかったことがある。




「別に・・・」


「理由ないなら他のとこ行く必要ない」


「そんなの、あんたに関係ないじゃん」


「関係ない?」



そう言って突然、長太郎は机の上に置いてあったあたしのノートやら参考書やらを手にとってビリビリと破きだした。




「ちょっ!!何してんの!?」


あたしが叫んだら、長太郎は手を止めて無表情のままで言った。



「関係ない?俺とが関係ないって?」



あたしはその迫力に押されて引きつった喉から声を絞り出した。



「ただの幼なじみなだけでしょ。あたしが他の大学に行ったって長太郎には影響ないじゃない」


「俺の気持ち、解ってて言ってんの?」


「いつもヘラヘラ笑ってるあんたの気持ちなんか解るわけないでしょ?」




長太郎は座っているあたしに近づくと椅子の背に手をかけてあたしの頭上を覆った。




「いったよね?白馬で迎えにいくから結婚してって」



「何が白馬に乗って迎えに来るだ!あたしが乗ってんのは女の腹じゃん、迎えにくんなよ」



その状態に焦ってそう罵ったけど、長太郎がその出来事を覚えてるのを意外だと思った。

久しぶりに近づいた長太郎にあたしの心臓はドキドキなってて、それを悟られまいと必死に表情を作った。




「それは、との時に備えて」


つくづく酷い男だと思った。可愛い女の子達にも、あたしにも。

けれど長太郎はそんなことは気にもとめないで続けた。




「それなのに、そんなこと忘れたように俺に冷たく振る舞って。あれ、わざとでしょ?」



長太郎があたしの顔に自分の顔を近づけてジッと見つめるので、あたしは少し上体を逸らした。

そしたら長太郎は「ほらそうやって逃げる、俺はいつまで待てば良いの?」と言った。




「待たせた覚え、無い」


あたしはドキドキとなる心臓をかばうように両手で長太郎を押しのけると、キッと睨んだ。

でも長太郎はものともしなかったようだ。



「俺の事好きなくせに。でもビビって逃げてるくせに」


「なっ!!」


返せる言葉もでてこなかった。でも長太郎はさっきよりは表情が戻ってきて、焦ったあたしをみて少し笑みを浮かべた。




「大丈夫だよ、俺ものこと大好きだから」


「好きじゃないっ」



口ではそう言ったけど、心臓は鳴りっぱなしだった。



「顔にでてるんだよ。いつも」


(・・・いくら何でも心臓の音は聞こえないよなぁ・・・)



長太郎の言動と、今までの気持ちに矛盾する心臓の鼓動にあたしはうまく対応できない。

そんなあたしの様子に長太郎は何を勘違いしたのか




「あぁ、これからは一筋だから」


「付け足す様に言うなよ!ってかそーいう問題じゃないから」


「もうが嫌がっても我慢しないよ。どうせ全部、照れ隠しなんだから」



そう言って、笑う長太郎にあたしはもしかしたらこの先ずっとこいつのペースに巻き込まれて流されていくのかもしれないと思った。


そうしたら白馬に乗って迎えにくるんだろうか。


                  恥ずかしいことこの上ないなぁ。








----------------------------2005.12.00
ちょうたろうくんは、さんしか見えてないようです。