跡部があたしと付き合って、初めてしたのはキスだった。 2番目にしたことは浮気だった。 キスなんかするんじゃなかった。 「おい、」 あたしは唇をグッとぬぐいながら、大股でどんどん歩いていた。数メートル後ろから同じように跡部が早歩きでついてくる。 早歩きで鬼ごっこを町中でしている様に見えるあたし達は、周りから奇妙な視線を投げかけられていた。いや、でも女の子から向けられる視線は、跡部への熱いものだ。ムカツク、ムカツク! そんな周囲を気にせずに跡部は「おい!!」と大きな声であたしの名前を呼ぶ。あたしは恥ずかしいのと腹立たしいので無視を決め込んで、振り向かないで前へと進む。 今にも走り出しそうな勢いでちょっと息もあがっている程だった。それでも跡部はコンパスが違うのだろう、「無視すんじゃねぇよ」という声がすぐ近くで聞こえて肩をぐっとつかまれた。 無理矢理振り向かされる形になったあたしは、跡部の顔をグッと睨みつけた。 そんなことに動じもせずに跡部は「あやまってんだろ」となんとも偉そうな態度だった。大体こいつは謝ってない。「悪いと思ってる」とかは言ってた気はするけど「ごめんなさい」とは言ってない。 「謝ってないし、別れてやる」 あたしがそう言うと、跡部は「あ?なんでだよ?」と眉毛を片方つり上げた。 ・・・病気なんじゃないのコイツ 「絶対、別れる」 「別れねぇよ」 「いや、別れるし」 「なんで付き合ったばっかでわかれなきゃなんねぇんだよ」 「なんで付き合ったばっかで浮気されなきゃなんないのよ」 「だから謝っただろ」 「謝ってすまないし、てか謝ってないから」 だんだんだんだんだんだんとムカムカが募ってきて、あたしは目の前の跡部の脛を思いっきり蹴った。 怯んで一歩さがった跡部を持っていた鞄でバンバン殴った。跡部は驚いた顔をして「おい、やめろっ、やめろって」とあたしの攻撃をふせいでいた。 街の中で男前に鞄をふりまわすあたしは注目の的だ。 どうしてこいつのためにこんな恥をさらさなきゃなんないんだろう、そんな思いと今まで我慢してきた悔しさとで涙がでてきた。 あたしの力で殴っても痛くはないだろう、けどあたしがみっともないぐらいに泣いてるのをみて、さすがにここじゃマズイと思ったのか、鞄を振りまわしているあたしの手首を掴むとずんずんと今きた方向に歩き出した。 「ちょっと!はなしてよ!」 あたしは痛いほどに手首を捕まれたまま、はなせはなせと喚き、思いつくだけの罵詈雑言を跡部にあびせた。 跡部はそれを気にすることなく、誰もいない小さな公園に入り、端のベンチにあたしを座らせた。 あたしの顔は涙でボロボロになり、跡部は灰色のハンカチを取り出してあたしの顔を乱暴に拭いた。 「泣くんじゃねぇよ」 「誰のせいだよ」 「悪かった、もうしねぇから」 跡部の本当に困ったような顔を見たのは後にも先にもこの時だけだったと思う。 右手で頭をかいてあたしをみおろしていた。 「やだよ、そんな簡単に許せるほど色々わかってないもん」 「わかんなくていいんだよ、」 跡部はそう言って、鼻水をすするあたしの頭を撫でた。 そうして、あたしの前にしゃがみ込み、いつものニヤリ笑いをした。 「俺はこれでいて、お前にベタボレだ」 (こいつ浮気してたくせに・・・。) せめてもの仕返しとハンカチで鼻水を拭いたら跡部は嫌そうな顔をした。 ------------------------ 2005.02.13 |