ありえない。女子高生のあたしが毎日、男にのっかられるなんてあってはならないことだ。 でも、「!」と嬉しそうに聞こえる声の主は毎日あたしの背中に全体重をかけて朝の挨拶をする。 今日も教室に入るなり、背中にどっしりと重みを感じた。そしてその勢いでバランスを崩し、2人とも床に崩れてしまった。 「大丈夫?」 あたしが痛いとか言う間もなく、転んだ原因は声をかけてきた。 まるで犬みたいな目できょとんとあたしを見てる。 「慈郎君、こういう挨拶は止めてっていつも言ってるでしょ?」 「ごめん、でも俺のこと好きだから、」 そう恥ずかしげもなく笑ってる慈郎君の腕はあたしの腰にまわりっぱなしだ。 「腰に巻き付くのもやめて!」 「だって、今日寒いでしょ?こうしてるとあったかいじゃん」 名案とばかりに笑った慈郎君は、可愛いにこしたことはないんだけど、ここまでくると困りものだ。 慈郎君はあたしの事が好きらしく(でもそれが恋愛感情なのかどうかはわかんない)毎日あたしに飛びかかってくる。 クラスメイトはもう慣れてしまって、あたし達に気をとめる人なんていない。むしろ公認のカップルみたいなノリだ。 (そんなノリいらん) 「あのさ、慈郎君は自制心を持つべきだよ。世の中自分の思い通りにいくわけじゃないんだから」 あたしは床に尻餅をついたまま、腰に手をまわされたまま、慈郎君をたしなめた。 慈郎君は不思議そうに首をかしげた。 「自制心?」 「自分を押さえる心だよ。自分を押さえなきゃ人に迷惑をかけちゃうよ?」 そう教えてあげると、慈郎君はニカッと笑ってとんでもないことを口にした。 「大丈夫だよ、俺にはずっとがついてるじゃん」 「どうせ結婚するんだから、俺が間違っても、が教えてくれるもんね」 あたしは心の中で跡部君に助けを求めた。 跡部君とは仲良くもなんとも無かったけど、慈郎君のことで苦労してるのは一緒だ。 あたしは神様でも帝王様でも何でも助けを求めたい気分だったのだ。 「結婚とかしないから!慈郎君は一人で生きていけるようにならなきゃ!」 「はいつも嫌だって言っても最後には聞いてくれるから好きー」 必死で説得しようとするあたしに慈郎君はまた輝く笑顔を向けた。 あたしは仕方なしにそのふわふわの髪をなでた。 (この甘さが駄目なんだろうなー) |