「先輩の味が忘れられません」 鳳がはにかんだ笑顔でそう言ってきたのは大勢のいる食堂のど真ん中でだ。 もちろん彼はテニス部なのですぐ側にレギュラー部員が座っていての事だった。 「・・・それは・・・どうも」 突然の鳳の問題発言にあたしはしどろもどろになって返事をした。 でも、勘違いしないで欲しい。鳳は昨日あたしがたまたまあげた調理実習の残り 物の話をしてるのだと思う。(廊下をでて一番最初に会ったのがこいつだった) でも、そんな事実なんて周りの人々が知る訳も無く、大勢の生徒は私達にくぎづ けになっている。勿論、テニス部レギュラー陣も そんなことなど気にせずに鳳は続ける 「先輩、とっても上手で…普段はそんなことするようには見えないんで意外で した」 よくもまぁこんなややこしい発言が上手い具合にでたもんだ。 周りの生徒はますますあたし達から目が話せない。 テニス部を見ると、跡部と忍足はニヤニヤと嫌な笑いを浮かべ、ガクトは驚いて 、マジかよー!と声を張り上げていた。宍戸に至っては最上級のアホ面で状況が 上手くのみこめないでいるようだ。(きっと後輩が自分より先に脱☆チェリーし たって勘違いの上の現実逃避だ) ざわめく周囲を気にしながらあたしは 「…嬉しいんだけど、今すっごい誤解をまねいてるよ、あたし達」 「そんな!先輩はすごく上手だって事、俺だけは知ってるんですから」 鳳は慌てたように言う。 (わざと?ねぇわざとなの?) 誤解を解こうにもなんと説明すれば良いのかわからない。「その言い方じゃあた し達がヤったみたいじゃない」とか言おうもんなら「やったって何をですか?」 て答えが返ってくるに決まってる。 鳳が天然なのか腹黒いのかは知らないけど、とりあえずこの状況打破だ。 「ありがとう。昨日あげた調理実習の残り、そんなに上手くできてた?それなら 、この先すきな人や彼氏ができても安心だー」 この台詞をあたしは大声・棒読みで周囲に聞こえるように言い放った。 すると周囲の人だかりは期待していた結果と違ったのだろう、もうあたし達には 興味なさそうに散って言った。 ガクトの「なんだー」ていう声も聞こえた。 (なんだじゃねぇよ) でも鳳は笑顔のままで「チッ」ってあたしにだけ聞こえるような音で舌打ちをし た後、「そのうち食べちゃいますから」とそれはもう爽やかに爽やかに言ったのだった。 ------------------------ 2006.07.08 |