「…怪物あくつ」




まわりがざわめいてそんな単語がちらほらと聞こえる。
部活中のあたしはコートの中でおろしたてのボールを運んでいるところだった。




「おい、侑士みろよあれ」



岳人がラケットをふる手をとめて忍足に声をかけた。他の部員達も岳人の指す方向に注
目する。あたしも所定の位置にかごを置いて顔をあげた。






みんなの視線の先にはあたしの幼なじみの仁がいた。だらしなくフェンスにもたれかかってすごい目つきでこっちをみている。(でも本人はいたって普通のつもりなんだろう)





「おい、


どうしてここにいるんだろうと首をかしげるあたしの名前を呼んで仁が手招きした。その瞬間、周りはさらにざわめいた。
(うーん、ちょっと恥ずかしいかも)






「仁、どうしたの?」


(「って亜久津と知り合いなんか?」「わかんねぇ。でも仁って呼び捨てだぜ?」)



コートからでて仁の方へと近づくと、仁はあたしのほうに向き直った。



「おー、様子見だ」

「何それー」


あたしは仁らしくない行動にすこし笑いながら言った。学校もちがうしどっちも忙しくて最近はあんまり顔を見てなかった。それが、仁の方から会いにきてくれるなんて、嬉しいことじゃない。




(「おい、あれなんだ?」「おー、宍戸。なんやしらんけど楽しそうやな」「もしかして…付き合ってんのか?」「えー!マジ!?」)




「元気そうじゃねーか…」

「うん、」

「氷帝で良い奴とかいねぇのか?」

「なかなかねー、みんな良い人なんだけど」




(「達、何話してんだ?」「わからん…」「くそ…」「…宍戸、のこと好きなんか?」「ばっ!」「…いや、俺ものことはええなーと思っとってん」「…気になってはいる」)






「おい、!何やってんだ!はやく仕事に戻れ」

その瞬間、跡部の怒鳴り声がきこえた。いつもとは少し違う声色にあたしは肩をすくめた。振り向くと跡部の表情はいつもの倍は不機嫌さをたたえていた。
そんな跡部をみて仁は少し顔をしかめた後、珍しく笑みをうかべた。何か楽しそうだ。




「あいつ誰だ?」

「部長の跡部だよ、あたしもう戻らなきゃ」

「…へぇ…なるほどな」



あたしがごめんね、とつけたしてコートに戻ろうとしたら、仁は「ちょっと待て」と言ってあたしの腕をつかんで引き寄せた。仁との距離はすごく縮まって、仁のするどい目がはっきりと見えるくらいになって…











(「うわわわわわ!」「あーぁショックやわー」「くっ…」)






ヤンキー母校に帰れ!




(あー跡部見てみぃ、放心状態や。あれ絶対本気やったで)      2006.08.08