チラリ




「お誕生日おめでとう」



という女の子の声が教室にとびかう。その言葉に愛想良く「ありがとうなぁ」と独特の発音で返す忍足が今日の主役だ。


この前の跡部の時もすごかったけど、今回もなかなかだ。忍足に彼女がいるってみんな知ってるはずなのに、顔を真っ赤にしてる女の子も少なくないのは忍足君の彼女がうちの学校でもないし、ぼんやりした存在でしかないからだと思う。
それにくわえて忍足はたらしだからだ。(多分)






「・・・(この前の出来事はきっと忘れたほうが良いな)」






にこにこと女の子たちに笑顔をふりまく忍足をみていたら、あたしはなんだか悩んでたのがバカらしくなった。
(でも普通は悩むよね)













、今帰りか?」


放課後、下駄箱で靴を履き替えてると、後ろから低い忍足の声がした。




「うん、」


と振り返ると意外にも、うすいテニスバックを肩にかけただけの身軽な忍足がいた。







「あれ?忍足、誕生日の割に身軽だね」


「おー、俺プレゼントはもおてないねん。荷物なるし」


「(・・・この男は)」





あたしが微妙な表情をしたのに気付いたのかどうかはしれないけれど、忍足はほほえんであたしに言った。







は俺に一言もなし?」



「あ、おめでとう」



に言うてもろて嬉しいわ。いつ言うてくれるんかなと思ってたから」



これはあたしでなくてもドキリとしてしまうのではないか。
顔をほころばせた忍足を少し可愛いと思いながら、あたしは「こういう奴だから」と一生懸命自分に言い聞かせた。






「部活、頑張ってね」


「ん?今日はデートやねん。ほなな」






どうしていいかわからずに当たり障りのない言葉をかけたあたしに、そう言った忍足はさっきよりもっと嬉しそうな顔をして背中を向けて歩いて行った。



それは今までみたこともないような表情だったのできっと彼女の前だけで見せるものなんだろうと、バカらしいことを考えた。

--------------------------06.10.15
なにはともあれおめでとう。