他校の男の子にメールアドレスをきかれちゃった。


あたしの報告に宍戸は大した興味も示さずに「ああ、」とだけ答えた。






「ああ」というのがあたしが言った言葉に正しい返事なのかさえあやしい。

けれど宍戸はあたしに背中をむけて、窓の外のテニスコートに目がくぎづけだ。






もっと心配してくれたって良いのに。


そう言って、ぷくっと頬をふくらませて拗ねた仕草をすると、宍戸は顔をあげてこっちを見て、
少し驚いたように「めずらしいな」と一言いった。



たまらなく恥ずかしい気持ちになった。



ほんの、ささいな










「先にもどっとく。」



あたしは自分のお弁当箱をつかむと、また窓の外に視線を戻した宍戸をおいて階段を足早におりた。宍戸は一言も発しなかったから、まだテニスのラケットでも眺めてるんだろう。








朝練がない日に一緒に登校する。

お昼を一緒に食べる。

一緒に帰る。







なんとも普通な恋人同士の付き合い方だけれど、それははじめの頃の行動がただなんとなく今まで続いて、習慣化しただけのように感じる。

宍戸はあたしに興味がないように見える。もともとそんなに構ってくる方でも無かったけれど、つきあい始めた頃はあたしが拗ねて、宍戸がばつが悪そうにしながらも謝ってきて仲良く手をつなげた。


でも今じゃ、手をつなぐにもあたしが手を出して宍戸が「ああ」と忘れていたかのように言って、その手をにぎる。



大きな問題があるわけでもない。でも、小さな不満があたしの中にちょっとずつたまって何かが噛み合わなくなってるのは確かだ。








実際、もうダメかもしれない。



少し相談した忍足には、「なるようになるわ」とだけ言われた。


冷たいなぁ。と少し不満に思ったけれど、物事って本当にそうなんだから仕方ない。










そんなことを考えた今日は、いつも待っている宍戸のクラブ活動を待つ気にもならず、あたしは授業がおわるとすぐ帰る支度をして校門に向かって歩いた。

メールは、しなくても良いかな。どうせしても「ああ、」となんの興味も示さない宍戸の顔を思い浮かべて思った。
校門には、一日が終わって街にくりだそうとするのだろう生徒がたくさんいる。
友達同士もカップルもいるし、これから好きな人に会いに行く子もいるんだろう。
なんにしろみんな楽しそうだ。どうして今のあたし達にはこれができなくなったんだろう。




「おい!!」


暗くなった気持ちをひきずるように歩いてたら、地面を蹴る乾いた足音とともに後ろから大きな声をかけられた。

その声は誰だとはすぐにわかったけど、こんな大きな声を出されたのは久しぶりなので、驚きとともに振り返った。
そしたら肩で息をしながら、すこし顔を火照らせていて、全速力で今ここに駆けつけたのであろう宍戸がいた。






「なんで先かえろうとしてんだよ!?」


「はぁ?」


先に帰ることがそんなに大変なことなのかとあたしがびっくりしたまま何にも言わないでいると宍戸はつづけてまくし立てた。






「お前、俺と別れるつもりなのか!?忍足が言ってたじゃねぇか」


「え、いや、」


「お前今日の昼もなんか怒ってたけどよ、俺なんかしたか・・?」



だんだんと語尾が弱くなってく宍戸を見ていると、身体の力が抜けていく気がした。

あたしは勝手に勘違いをして、ムダな心配をしていたかもしれない。
いや、無駄ではなかったかもしんない。他と一緒じゃなくても自分達の形があるんだと、気付いた。




だって目の前にいるのは他でもないあたしの好きな人で、そいつは人前にもかかわらず顔を真っ赤にしながらあたしに愛を怒鳴ってるんだもん。











な、だからなるようになるて言うたやろ?

忍足の無表情な顔が目にうかんだ。

-----------------07.01.23
そんな ほんの、ささいな 愛のきずな。