「今日さー、跡部にノート借りに行ったらさー、なんか彼女が貸してくれてさ、牽制されてるのかな?跡部に近づくなってこと?あたしの方が跡部とつきあい長いのにさ。ぽやんとしてるように見えるけど、怖いよ。男子はみんなあんなのが?忍足も好きなの?あたしもあんなゆっくり喋ったら跡部の彼女になれるかなぁ、ねぇ、おした・・・」


「・・・」




期待していた忍足の優しい慰めの言葉が聞こえない。いつもだったらすぐに返ってくるのに。不満に思って横を向くと、それまで忍足と思っていた物体は日吉だった。







ダークホース











「えええー!?いつから!?」


「・・・部室に入ったらいきなり話し出したんで、とうとう頭おかしくなったのかと思いましたよ」









なんだなんだこいつは!後輩のくせにあたしに尊敬の念をぜんぜん抱いてませんね。










「忍足はー?」


「本当は部長に会いに来たんでしょ?」


「ち、ちがう!オシに話きいてもらいにきたんだよ!」


「話なら俺が聞いてあげますよ」









心にもない顔で日吉はジャージに着替え始めた。こっちを見ようともしない。









「わぁー日吉くん頼れるおとこー  かっこよくみえるー」(棒読み)



「それが恋ですよ、さん」









日吉が心にもないといった顔で言い放つ。

ふざけんな、あたしが恋してんのは跡部なんだよ。跡部が恋してんのはあたしじゃないけど。





幼なじみの跡部にかわゆいかわゆい彼女ができてから、もう長い。

小さいころからずっと一緒にいすぎたのか、あたしは彼の対象から見事に外されて、あたしの場所だった跡部の隣は他の女の子に奪われてしまった。




初恋の想いはだてではなく、こうして何かある度に忍足に愚痴を聞いてもらって、あたしはまだ気持ちを切りかえられずにいる。

「もう意地みたいなもんやな」忍足が決まっていうけれど、意地も張らずにそうそう簡単に認めてたまるか。










「いいかげん、部長おっかけんの止めたらどうすか」








黙りこんだあたしの様子をみるように日吉が言った。
日吉、きっとこんな話題は苦手だろうなぁ とか思いながらもつい卑屈な言葉が口をついてでる。









「わかってるよ、あたしはあの子みたいに華がないもん」


「華も胸もないっすね」



「・・・」







ちょっとショックで涙がでるかと思った。仮にも失恋中のあたしに何を言ってくれるのか、思わず下をむいて確認してしまったではないか。そんなあたしに軽くため息をついた日吉は着替えを終えて、ジャージのチャックを上まできっちり止めてこっちをむいた。









「だから、俺の方が良いんですよ、あんたは」









笑うわけでもなく、困った顔をするわけでもなく









「部長なんかのことはさっさと忘れなさい。」









できの悪い子供を持った親みたいに言い聞かせるように、いつもの顔で日吉はあたしの度肝をぬいた。


----------------07.08.01