びゅうびゅうと、北風が容赦なくあたしの頬に体当たりする。
この時期になると日が落ちるのも早くて、この時間にはもう真っ暗だ。あたしは肩をぶるるとふるわせる。
やっぱり、ブラの上にキャミソール、そして制服のカッターシャツにカーディガン。これではさすがに寒かった。あたしは背中を丸めて腕組みをしたまま動けないでいた。






「わりぃな、遅くなって」


そこに現れた彼氏の宍戸くん。さっきまで部活をしていたはずだけれど、ジャージではなくてちゃんとカッターシャツの上にカーディガン、ブレザーを着てマフラーをしている。



「遅いよ!」



あたしはふくれっ面で文句を言う。
(頬は寒さで赤いはずなので、この可愛さは十分に伝わってるはずだ。)





「監督の話が長びいちまって」



少し罰の悪そうな顔をして宍戸が言い訳を口にする。その肩に背負われてるテニスバックからはジャージが半分、だらしなく飛び出ている。バックにジャージを詰めこんで、チャックも閉めずにとんで来てくれたのかと思うと口元が緩んだ。背中にテニス部員の冷やかしをうけながら。




「これが可愛いから許すー」


そう言いながら、やっぱり急いでたせいか、掛け違いになっているカーディガンのボタンを正しく直してあげた。






「うーん、寒い」


「薄着だからだろ?」


「そうだね」


「昨日も言っただろ?もうちょっと防寒しろよな」



適当に相づちを打っていると、大人が子供に言い聞かせるように宍戸に言われた。
そんなこという前に、もっと打つ手があるだろう。可愛い可愛い彼女がどうして、寒いのにこんなに薄着で自分の目の前を歩いてるのか。ねぇ、考えてみてよ。




「そーうーだーねー」


「何怒ってんだよ?」



宍戸が俺なんかしたっけな、と心配混じりに聞いてくる。
ああ、もうじれったいなぁ。




「そのマフラーをあたしの首にかけてくれないかなーと思ってね!」



女の子にここまで言わせるんじゃないよ。と心の中で少し毒づきながら口を尖らすように言って宍戸を見ると、彼はたちまち顔を赤くしてかたまった。




「わりぃ!!」


数秒後、大声でそう叫んで宍戸はあたしを体ごとがばりと抱きしめた。たちまち、あたしに当たる風が消え、宍戸の体温が伝わってくる。宍戸の肩越しに部活終わりの同級生のニヤニヤ笑い、後輩の奇異の目が見える。
うん、確かにあったかいけどね。やり過ぎだよ宍戸!!




ハッと気付いた宍戸は、名残惜しそうにあたしの体を離した。そして再び冷たい風にさらされたあたしの首に自分のマフラーを巻きつけた後、バックから汗のにおいの染み付いたジャージを引っ張りだして着せてくれた。それだけじゃなく、下のジャージもあたしの首にぐるぐると巻きつけた。うーん、幸せだなぁ!





ぴんくいこがらしいちごう。

-------------------------------07.12.04
常識がある人がブチぎれると暴走する。