猪突猛進






「んーもーぉー!はーなーしーてーよー!」





あたしは卒業証書の筒の先をフタが外れてしまわないようにしっかり持ちながらひっぱった。その筒の底の方を「絶対はなしません!」と引っ張ってるのは一つ下の学年の鳳君だ。今日は高等部の卒業式で、あたしは無事、卒業する事ができた。進学するのは同じ氷帝の大学なんだけど、外部にいっちゃう友達もいてそれなりに涙のある式になった。その余韻を味わう間もなく、鳳君があたしのクラスに乱入してきて、卒業するなと騒ぎ出した。


彼はテニス部で、あたしのクラスメイトの頼りない宍戸君を通して知り合いになった子だ。前々からあたしのことを好きだとかなんといって猛烈なアタックを仕掛けてこられたんだけど、あたしはもっとクールな人(そう、例えば日吉君のような★)が好きなので、はっきり言ってお付き合いはできません。と何度もお断りをしていたのだけど、さわやかな外見に似合わず、鳳くんは執拗だった。







「先輩ー卒業しないでくださいー!」


「別に一生の別れになるわけじゃあるまいし!」


「学年が違うのだって嫌だったのに、先輩が違う学校に行くなんて・・・」


「大学部とか目と鼻の先じゃぁん!!」






バカな鳳君は顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら大声で泣きわめいている。
前々から犬っぽくて頭の弱そうな子だと思ってたけど、ここまでひどいとは思わなかった。







「ちょっと、これあたしが卒業した証なんだから!汚さないでよ!」


先輩が卒業できるなんて予想外でした〜!やっと来年に同級生になれると思ってたのに!!」


「・・・! ひどい!!」







この世の終わりのような顔をしている鳳君がたちまち憎らしくなった。
すごい勢いで卒業証書を取り合うあたし達を奇妙なものを見る目つきで周りの生徒が見ている。その中に、あたしの友達であり、鳳君の先輩である宍戸くんがオロオロした表情でどうしようもなく立っているけど、彼はミスター頼りないなので期待してない。



誰か鳳君を止めてくれよ、と周囲をぐるりと見渡すと廊下の向こうから跡部君や向日君といった、テニス部の面々がこっちに向かってくるのが見えた。ああ、もしかしたらあの中に日吉君もいるんじゃないかな(よく見えないけど)
心臓がどきんとなって、冷や汗が流れた。





「鳳君、ちょっと、ほんとうに離してくれない?」






あたしは筒の端を持ったまま床にへたりこんでいる鳳君に焦りながら声をかけた。





「日吉君に、変な勘違いされたら困るんだけど」




あたしの言葉に鳳君はパッと顔を上げて大きな声をだした。




「日吉のどこが良いんですか!あんなムッツリ!!」


「ぎゃー!そんなこと言わないでよ!知りたくないよ!」


「ムッツリより、俺の方が爽やかで良いですよ!」


「聞いてないよ!日吉君はニヒルでクールなんだから!」


「本当です!日吉、この前階段登ってる女子のパンツ見ようとしてましたもん!」




がつん、と固い物で頭を殴られたようなショックを受けた。それと同時に、目の前の鳳君が横に吹っ飛んだ。その代わりにあたしの前に明らかに激昂している日吉君が拳を握りしめて立っていた。つまり、鳳君はリアルに殴られた。
そして、日吉君はあたしのこともその切れ長の目でギロリと睨んだ。



(ちなみに日吉君と目が合ったのは今が初めてなので正直、とても嬉しかったです)




「日吉!俺が先輩のこと好きだって、お前も知ってんだろ!?」


鳳君が殴られた頬を押さえながら日吉君に向かって叫んだ。
日吉君は青筋を立てたまま、「俺を巻き込むな」と鳳君に言い放って「嘘を言いふらすな」と付け加えた。




日吉君があたしをかけて、喧嘩をしてくれていることにあたしは胸がいっぱいでした。



--------------------------08.01.20
なに、これ。氷帝に大学部を作りました。(あったけ?)