「おい、


そうあたしの名前を呼んだ忍足の目は何か企んでいるようだ。忍足が指さしたその先には忍足と同じ部の跡部くんがいた。今日も花輪君のような仕草で教室を闊歩している。
それは多数の女子がいくら黄色い声をあげようとも、あたしと忍足にはどうしても面白いものにしか見えない。跡部くんが現れればもっぱらあたしと忍足の話題の中心は彼になってしまう。




「跡部おんで、いってこいや」


「ほんとだーかっこういいー(棒読み) 」


「告ってこいや」


「どうしよっかなー」



漏れる笑いをかみしめて、跡部君に気づかれないようにあたし達は顔を寄せ合って会話する。



「チャンスやチャンスや今しかないで」


「えー、でもあたしなんか相手にならないしー」


「ま、せやな、あんなレベル高いんやったら、いかれへんよなー」




あたし達は教室の端で、こそこそと跡部くんの取り巻きに聞こえないように悪のりをする。いつもこうして陰で跡部くんのことを笑ってしまうのだ。
だって跡部くんだったら、あんなに整った顔して、あんなにお金持ちで、スポーツできるのに、おもしろいんだもん。そんなに良い条件がそろってるのに、なんであんな変な性格なんだろう。忍足とあたしはそれを考えだすともう止まらないのだ。





「おい」


あたしたちがハッとして顔をあげると、そこには跡部くんが偉そうに立ってあたし達を見下ろしていた。笑ってる間に跡部くんがこんな近くに来ているのに気づかないとは。いったいどこから話を聞かれていたんだろう。
忍足をみると、あたしと同じように「まずい」というような顔をしていた。



「お前ら、俺に言いたいことがあるんだよな?あーん?」


「えーと、それはやなぁ、やんなぁ?」


「ええ!?あたし!?」


忍足のの無茶ぶりに、逃げやがったな、こいつ!と怒りをおぼえる。



「そうや、!言うてまえ!」


「(ちょっと、忍足、後で覚えときなよ)」



忍足に目で文句を言いながら、どうしようかと、恐る恐る跡部くんを見た。
しかし、思ってたより顔が怒ってない気がする。いや、怒ってるというよりは、むしろちょっと嬉しそうに、・・・嫌な予感!




「しょうがねぇな、付き合ってやるよ、!」


「ええーーーーー!?」



跡部君のぶっとんだ答えにあたしと忍足はどんびきして、忍足はおどろいて済む話だけど、あたしはなぜさっきまで馬鹿にしてた相手と付き合わなければならないのかと、半泣きで忍足に目で訴えると、忍足は「ええやん。この前、”スポーツやってる人が好き”って言うてたやん、」と苦笑いで答えやがった。




バカ、それはお前のことだよ





(ふつうの高校生をかきたかった)