今日の現代社会の授業で、先生はノートもとらずに窓の外を見つめるあたしを指名して質問した。それは、世間で大きく取り沙汰されている、どこかの貧しい国とその隣の国の紛争を片方の国の立場になって考えるとあたしはどう思うかとか、そういう質問だった。「どんな理由があっても武力はいけないと思います。」と小学生並みの答えを言ったあたしに先生もそれ以上の追求はせず、すぐに着席の許可がでた。少し離れた席の跡部を見ると、彼は楽しそうに笑っていた。 「跡部の家に行っていい?」 「・・・」 あたしの手に繋がってる別の手を腕、肩と目で追っていくと跡部の顔がある。 あたし達は放課後はいつもこうやって手をつないで帰る。毎日、部活もせずに跡部の帰りを待つあたしに友達は、「勉強したら?」とか「学校の近くでバイトしたら?」と提案してくれるけど、勉強は跡部と一緒にするし、お金を使う時ってだいたい跡部が一緒にいるのでバイトも必要ないのだ。 その顔に問いかけると、今までまっすぐ前を向いていた視線は、見下ろすようにあたしの方を向いたものの、すぐに返事は返ってこなかった。 その沈黙は、またかよ。とか、明日も朝練あるからとか、お前も学校あるだろう。という跡部の気持ちが表れたもので、あたしはそれをすぐ読み取ることができた。 「やだ、行くよ」 読み取ったうえで、あたしがわがままといえる言葉を返すと、ため息が聞こえて承諾の言葉の代わりに、つないだ手に握力がかかった。 あたしが初めて跡部の背中に腕を回して、跡部のお腹にギュウギュウと顔を押しつけた時、跡部は少し驚いた様な顔をした。その後すぐにフンと笑ってあたしの頭を撫でてくれた。その行為と、跡部しか知らないあたしの仕草、あたししか知らない跡部の笑い方は、あたしの中にある不安をたちまち取り払ってくれる魔法のようだと思った。 「お前にとってのセックスは気持ちいいとか良くないとか、そういうのとは別の次元にある。」 この前、あたしの顔を見ながら言った跡部の言葉は称賛でも嘲笑でもなく、ただ感じたことをそのまま口にだしただけだと思うのだが、あたしは自分でも本当にそう思う。 本当はしてもしなくても、どっちでも良いのだ。 ただ付き合ってる男女である限り、跡部に求められたりたまには求めたりするだけで、あたしにとっては跡部と一緒にいることが重要になのだ。 あたしが跡部の部屋でずーっと持ち込んだDVDを見ている間、跡部は生徒会の書類に目を通したり、部活のメニューを組んだり自分の仕事をこなしながら、時折あたし用のカップにお茶をついでくれたりしてくれていた。 DVDに飽きて跡部を見ると、最近いつも読んでいる分厚い本を手に持ち、ページを捲っている最中だった。跡部にしてはラフな格好に着替えていて、こっちの跡部の方があたしは好きだ。 「これ、今日の授業の要点まとめといたやつだから。」 跡部はあたしの視線に気付くと、「お前授業全然聞いてなかっただろ。」と付け足して、きれいな字の並んだルーズリーフをくれた。 あたしはいつもの様に「ありがとう。だから跡部って好き」と言うと、跡部はやっぱりあの笑い方をした。 本を退けるようにして跡部の首に巻き付くと、跡部は眼鏡を外してあたしにキスをした。甘いのが嫌いな跡部とのキスは苦いコーヒーの味がする。跡部の体温は意外にもあたしよりも高くて、その温かさがあたしを安心へと誘う。 そうしてあたしは熱によってとろけていく甘いクリームになった様な感覚に襲われる。 そんなあたしをあきれた様に見つめながら、跡部はあたしの頭をなでる。 跡部のその行為は、あたしがとろとろ溶けてしまうのをどんどんと促していく。 あたしはどんどん甘ったるくなって、どろどろに溶けていく。 どろどろになっても、跡部がいればあたしは呼吸することできて、跡部がいる限りあたしは溶け続けるんだろう。 あたしをそうさせたのは紛れもなく跡部だ。 飽和そして助長 ----------------------------------09.12.19 |