部活が終わり、玄関でクタクタになっている俺に母親は醤油が足りないとか言って醤油以外にもいくつかの品物の書いたメモを俺に押しつけた。浮腫んだ足をテニスシューズから解放してやる暇もなく、母親の声にせき立てられて重い腰を上げた。あーあ、なんかラッキーなことおこんないかなぁ。 醤油買って、サランラップ買って、ゴボウ買って。 おい、ゴボウが袋から飛びでてんじゃん!ださいなぁ、これで道を歩けっていうのかよ。おばちゃんに無理矢理握らされた生姜飴をズボンのポケットにねじり込みながら、うんざりと店をでた。早く家かえろー。 ふと、シャッターの閉まった店の前に見慣れた顔があった。同じクラスのちゃんだ。話したことは少ししか無いけど、俺が前々から可愛いと思ってるクラスの女の子だ。 ラッキー!チャンス!とばかりに俺はちゃんに駆け寄って、後ろから声をかけようとして、止めた。なぜかちゃんの様子がおかしい。 横を向いた時にちらりと見えたちゃんの鼻の頭が赤いのは、今夜がちょっとさむいだけじゃない気がする。ちゃんはカーディガンの袖で口元を覆っていて、そこからぐすん、ぐすっとくぐもった音が漏れる。 泣いている!俺の心臓はかすかに音をたてた。 俺がなぐさめてあげたいと、大声でちゃんの名前を呼ぼうとした時、俺の手元でガサリと大きく音がなった。 そこには泥だらけのゴボウがビニール袋からニョキリと突き出ていて、なんとも格好悪い。好きな女の子にこんな姿見せたくないなぁ。こんな俺を見て、ちゃんは笑うのだろうか、俺の気にしすぎだろうか。 そう思っている間にも、ちゃんは先へ歩いていき、俺は少しの距離を置いてちゃんの後を歩いた。住宅街の夜道には、ちゃんと俺の二人きりしかいなくて、ぐす、ぐすという声は大きくなる。この場には自分一人きりだと思っているちゃんの目からはどんどん涙がこぼれているんだろう。 やばい、可愛い。いや、可愛いとか言ってる場合じゃねー。 俺は母親を恨んだ。ゴボウのせいで女の子に声をかけることもできないなんて。 夜道には、ガコンガコンとちゃんが側溝の蓋をリズミカルに踏みながら奏でる音楽だけが響く。俺はちゃんに気づかれないように、黙って後をついてった。右手に提げた野暮ったいビニール袋からはやっぱりゴボウが飛び出てて、ゴボウ一本に振り回される自分にいやになった全く。 明日教室に入ったら、腫らした瞼をなんでもないよと笑うちゃんに、なんて声をかけようか。 ほとんど話したこともなくて、可愛いなと思ってるくらいだったのに今日のこれでめちゃくちゃ気になる相手になってしまった。 女の子の泣き顔でこんなに気になってしまうなんて、俺はなんて単純なんだろう! ステップステップステップ踏んで ------------------------------09.12.02 本当は赤也の予定ですた。 |