「お前の行動を読み取るに、いつも弦一郎を見ているな。」



目の前にいる柳はそんな無神経な言葉を、静かにあたしに投げかけた。窓から吹き込んできた風が彼の髪をサラサラとゆらす。柳の視線があたしの方を見ているのか、いまいち解りにくい。その何も見えない様な目で、何がわかるっていうの。あたしは唇をぐっと噛んだ。













「何それ?」



あたしは先生に提出するプリントから目を離さずに柳の言葉に返答する。
さっきドアをガラリと開けた柳は、放課後の教室に一人残ってるあたしを見るなり、前の席の椅子に腰掛けた。「何?」といぶかしげな気持ちを表して聞いたあたしに「確かめたいことがある。」と言い出したかと思えば、今のような会話を始めたのだ。
















「まず、テニスなんて何の興味もないお前が放課後にうちの練習を見学にくることがよくある。そして、大体は弦一郎がいる方を熱心にみつめている。」





俺は大抵、奴と一緒にいるからな。視線は感じる。と付け加えるように柳が言った。
あたしは少し高鳴る鼓動を隠して、なるべく平常心を保とうとプリントの問題をとくのに意識を集中させる。けれど指先を口元に持っていったあたしに、柳が「は、動揺している時に爪を噛むのが癖だ。」と先手を打ってきた。















「一瞬、幸村かとも思ったが、幸村の不在中にもお前は来ていたし」






話を聞き流すふりをしているあたしを気にすることなく、柳は続ける。









「何よりこの間、好きな人が鈍感すぎて困る。と友達に相談していただろう?」














そこであたしは、この話を続ける柳を横にしながら問題は解けないと、プリントから目を離した。データマンと呼ばれるこの男がどこをどう嗅ぎまわって、あたしと友達との会話を知ったのかは知らないが、これってプライバシーの侵害じゃない?という気持ちが過ぎる。














「鈍感な男といえば、もう弦一郎しかいないからな。」
「・・・そっか」
「しかし、弦一郎はやめておいた方が良い。恋愛沙汰に興味などないぞ。」





肯定も否定もしないあたしに、どうする?といった表情をむける柳。自分の導き出した結果に、相当な自信をもっているのだろう。そんな柳に、あたしは胸の奥に少し沸いた腹立たしさを隠せない。口の中でカチリと音がして、爪の先が歯にちぎられた感触がした。















「柳、あたしは動揺した時だけじゃなくて、イライラしてる時にも爪を噛むんだよ?」
「そうか、データにくわえておこう。」
「無駄だよ。柳にはあたしのデータなんかとれない」





想定外のこと言われたという、柳の空気がこっちにまで伝わってくる。
一瞬、怒ってるのかとも思ったけれど、感情の前に根拠を解明する性格だったということ思い出した。きっとなぜ、あたしにそう言われたのかを考えてるんだろう。柳じゃ答えは見つからないだろうけど。
今のあたしにとって、柳の感情よりも頭で物事を判断する癖が、ものすごく煩わしい。


















「なぜだ?が弦一郎のことを想っている確率は90…」
「あたしは100%、柳のことが好きだよ。」













遮ったあたしの言葉に、柳の閉じられた目元がぴくりと動いたのはきっと気のせいじゃない。そして、テニス部員でもないあたしのデータを必要以上にとっていた君に、真田のことを諦めさせようとした君の気持ちの確率に、あたしは期待してもいいの?









イージー・ラヴ


(なぜ顔が赤くなったのかなんて、考えなくても答えはでてる。)




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爪噛まない方ごめんなさい。私も噛みません。