たとえばあたしが跡部くんのことを視界に入れた時、跡部くんが他の女の子と親しげに話をしていたら、あたしは多少なりともモヤモヤとした不安を抱く。それが生徒会の役員、テニス部のマネージャー、跡部くんのクラスの女の子と跡部くんとの仲が良くなる子に比例して不安も大きくなる。

跡部くんに「あたし以外の女の子とは話をしないで下さい。」なんて大それたことは言えないし、そんな駄々を跡部くんが聞けないのも解ってるけれど、”不安になるんだよ。”という事実は跡部くんに知っていていてもらいたいと思う。けれどそれを跡部くんに伝えると、不機嫌な顔をされて「あーん?面倒くせぇこと言うんじゃねぇよ。」とあたしの気持ちは一蹴りされた。










スーパーヒットな恋をして




























「それってみんなにある気持ちだよ。」
「残念ながら、俺様にはねぇよ。」





よって、お前のその感覚はわかんねぇな。と鼻で笑われた。
ずるい。それって、あたしが跡部くんにメロメロだってことを十分に理解してるからでしょう。格好良くて、余裕に溢れてて、すごくスマートな跡部くんとその跡部くんのことが大好きなあたし、どう比べたってあたしの方が弱いに決まってる。
















































あたしは学校からの帰り道を歩きながら、跡部くんの横顔を見上げる。
跡部くんはチラリともこっちを見てくれないし、手だって跡部くんの余った手をあたしが握っているだけで、跡部くんからはちっとも握り返してはくれない。
かろうじてあたしに歩幅を合わせてくれているのだけれど、さっき「歩くのおせぇ。」とイライラした様に言われてしまった。それでも跡部くんがあたしのペースにあわせてくれてるのが嬉しい。

こうやって、あたしは自分で勝手に跡部くんの優しさを見つけ出して、満足する。本当はもう少し愛情表現して欲しいけど、なんせ相手は跡部くんだ。世界一の俺様で、偉そうで格好つけで、そして世界一かっこいい跡部くんなのだ。












「へぇ、」




隣を歩いていた跡部くんがいきなり立ち止まって、不穏な笑みを浮かべたので何かと思ってあたしも跡部くんの視線の先を見た。
その先にはどこかで見た事あるような、違う学校の制服をきた男の子達がいて・・・あ、青学だ。と思い出した瞬間に、あたしの心臓が少し跳ね上がる。
だって、部長さんがいて、菊丸くんもいて、すごくテニスの強いルーキーに、あ、やっぱり。色素の薄い髪をサラサラとなびかせて笑顔を浮かべる不二くんがいた!









「うわ、不二くんだ格好いい」







あたしは関東大会の時にジローちゃんと不二くんの試合を見て、周りにいた友達とその不二くんの華麗な姿に、大いに盛り上がってしまった。
その後の跡部くんの試合で一気に跡部くんに意識は持ってかれたけど、落ち着いてからは学校の友達数人で不二くんのことを密かに「王子様」と呼んで憧れていた。
今だって不二くんは、アイスを片手に優しげに微笑んでいる。中世的なルックスは本当に王子様って感じだ。写メとって友達に送りたいなぁ。











「おい、





突然の跡部くんの声にはっと意識を戻す。跡部くんの前で憧れとはいえ、他の男の子に見惚れてしまうなんて、とちょっと罪悪感を抱えながら、跡部くんの方を見る。
けれど跡部くんの表情は、さっきと同じ笑みのままで、いやさっきよりも「おもしろいもの」を見つけた顔だ。









「お前、不二のこと好きなのか?」
「えっなんで?」
「格好良いって口にでてたっつの。」
「あーうん。友達みんな格好いいっていってる。」





あたしが曖昧に返すと、跡部君は「フン」と鼻を鳴らした。
なんだかご機嫌が良くなっているのは気のせいだろうか。





「不二に紹介してやろうか?」
「え!ほんと?」




びっくりしたあたしの反応をやっぱり楽しそうに見つめて、跡部くんはあたしの手を離すと、青学の子達の方へ近づいていった。向こうもこちらには気付いていた様で、喋るのをやめてこっちに手をふっている。あたしは跡部くんの後ろに少し隠れるようにしてついていった。









「よぉ、手塚。」




跡部くんがいつものように偉そうに声をかけたのに、青学の部長さんは気にせずに対応する。跡部くんが少し離れた所にいた不二くんに向き直って「こいつはだ」とあたしを紹介してくれた。”俺様の女だ”というフレーズがなかったことに少し不満を覚えたものの、気にせずに不二君に話しかけることにした。そう、あたしは今、友達みんなの希望を背負ってる。







「初めまして。」





緊張気味のあたしに不二くんは優しげな笑みで答えてくれた。近くで見ても爽やかだなぁ。








「あの、あたし、っていうかあたしの友達みんな不二くんのファンで、」
「そうなの?嬉しいなあ。」
「うん、全国大会の決勝も見に行ったけど、不二くんのテニスすごく格好よかった。」
「自分では、そんなつもりは無いんだけど」
「えー!でも、見てると本当に格好いいんだよ!みんな言ってるもん」
「そんなに?今度氷帝に遊びに行こうかな」








冗談めかして言う不二くんに、「文化祭とか来てくれたらみんな喜ぶよ。」とうちの学校の文化祭の宣伝をした。不二くんは優しく相づちをうって話を聞いてくれて、「楽しそうだね」と、隣にいた菊丸くんを誘っていた。あたしは菊丸くんにも「菊丸くんのこともみんな可愛いって言ってるよー」と話した。
そしたら菊丸くんは照れたような顔を見せてくれて、その後に悪戯っぽい笑顔してあたしの腕をつついてきた。









「ところでさー、ちゃんって、跡部の彼女なのー?」
「うーん・・・、まぁそんな感じ?」






菊丸くんの興味津々といった質問に、さっき跡部くんがあたしとの関係をきちんと紹介してくれなかったのもあって、あんまり言わない方がのかな?と、あたしはなんとなく言葉をにごす。でも不二くんは「さっきまで手繋いでたのに」と笑っていた。ちょっと恥ずかしい。そう思って、えへへと笑いを浮かべると不二くんもやっぱり優しい笑みで返してくれた。そしたらいきなり、頭上から声が振ってきた。









「お前は俺の女だろ。」





てっきり青学の部長と話しこんでると思ってた跡部くんの不機嫌な声に振り向けば、声の通り跡部くんは何もかも気に入らない様な顔をして立っていた。え?と思っているあたしの様子なんか構わないで「帰るぞ。」とあたしの手を強引に掴んで、歩き出した。


いきなりの出来事に、「え、え、?」となるあたしは跡部に手をひかれたまま、ニコニコ笑いながら「バイバイ」と手を振ってくれる不二くんと菊丸くんに手を振りかえした。跡部くんのあたしの手首を握る力が一層強くなった気がする。






跡部くんの左手があたしの右手の手首をしっかりと掴んで、ひっぱるように歩く速度は心なしかいつもより速い様に思える。あたしはその小さな変化に「どうしたの?」と訪ねたけれど、跡部くんは前を向いたまま、何も答えてくれなかった。
けれどあたしは手首にかかる握力と、繋がった部分からじんわりと伝わってくる跡部くんの体温に、驚きと、「もしかしてこれは、」という期待を隠せない。












部屋に入ると、跡部くんは持っていた荷物を乱暴にその辺に投げ捨てていた。
今はこちらに背を向けて椅子に座り、机にほおづえをついてあたしとは逆の方向を見ている。時々、自分の髪をグシャってしたりしてる。きっとさっきの自分の行動にウルトラ自己嫌悪中だ。




あたしはスカートのプリーツが崩れるのも構わずに、跡部くんのベットに寝そべってそんな跡部くんの様子に嬉しすぎてニヤニヤ笑いをしている。笑ってるのが跡部くんにばれないように、顔まで布団を被ったら笑いだけじゃ足りなくなって、痺れたような甘い感覚に、布団の中でゴロゴロしてしまった。(きっと後で跡部くんに服のままでベットに入ったと怒られてしまう。)
「やきもちやいてるの?」なんて意地悪を言ってみたい気もしたけど、やめておいた。プライドの高い跡部くんのことだから、機嫌を損ねて口をきいてくれなくなるかも知れない。



どうしたら機嫌をなおしてくれるかなぁ、と考えていると、布団がべりっとはがされて、相変わらずの不機嫌そうな跡部くんの顔があたしを覗きこんだ。








「スカート、皺になるじゃねぇか」





そういって、跡部くんはあたしのスカートのホックを外した。あたしの浮かせた腰から、慣れた手つきでするりとスカートを抜いて、皺にならないようにベットの端にかけてくれる。けれど、跡部くんの表情はさっきと同じまま、全然変わらない。






「何、にやついてんだよ」
「だって、(跡部くんに余裕がないんだもん)」






頑張って顔を引き締め直そうとしたけど、やっぱりうまくいかない。
そんなあたしを最高に気に入らないといった目で見て、「俺様にここまでさせんだから、覚悟しろよ」と仰向けのあたしの顔の横に手をついた。あたしに覆い被さる形になった跡部くんは、上からじっとあたしの目を見つめる。


そして、唇を片方だけあげて、眉尻をすこしだけ下げてるくせに意地悪そうな笑い方をした。あたしがその顔に弱いの、跡部くんは知ってるくせに、わざとだ。









、俺以外の男を見んじゃねーよ。」





跡部くんの言葉はあたしのハートを最高速度でぶち抜いて、それと同時にさっきまでのあたしの余裕は跡部くんにすべて奪い取られてしまった。
そんなあたしの気持ちをインサイトで見抜いて、にやりと笑った跡部くんは「バカ、見てんじゃねぇよ」と矛盾した言葉を平気で吐いて、あたしの唇に息がかかるくらいに距離を詰める。











スーパーヒットなキスをする


(あたしは目を閉じざるをえない。)













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跡部くんのこと、ほんとに好きだなと思って。