「滋郎ちゃん起きて」



聞き慣れた心地よい声に瞼を開けば、ちょうどが俺の顔を覗きこんでいるところだった。ふわりと感じるの香りに少しどきりとして、を抱きしめようとしたら、「だめだよ」とやんわりたしなめられた。






do it.




















「滋郎ちゃん、部活始まっちゃうよ?さっき跡部が探してた。」



の口から出た”跡部”という単語にほんの少しだけ胸がざわついた。
の顔はちょっぴり気まずそうに俺を見ていて、そんなに俺は「そっか。じゃぁ行こうかな」と言って、勢いよく飛び起きた。







は俺の彼女だ。付き合い始めたのは一ヶ月前だけど、一年の頃からはテニス部のマネージャーだったから、付き合う前の関係とあんまり変わってない気がする。
ただ、と跡部の関係は変わったみたいだ。は跡部の告白を断って、俺と付き合った。











「跡部と会った?」
「うん、教室掃除してたら、滋郎ちゃん探してる跡部と会った。」
「あれ、は先週掃除当番じゃなかったの?」
「うん、でもかわってって言われたから。いつものさっちゃんに。」





ああ、あのさぼりのさっちゃんにか。と思っていると、跡部にも同じこと言われたよ。とは笑った。「跡部はなんて?」って聞いたら、「ちゃんと断れよ。だから、つけあがるんだろって」と、が足下に視線を移しながら言ったので、俺のちょっとした不安は完全に無くなった。









はちょっと前にテニス部のマネージャーを辞めた。
跡部を振ったことと、俺と付き合いだしたことが原因なのは、誰が見てもわかった。



そんなに「なんで辞める必要があるんだよ。それとこれとは関係ねーだろ。」と跡部は完璧主義者らしく言った。は「そうだね。」と跡部に同意しながらも、その後すぐに監督に退部届けをだした。
俺は最初から最後まで「うーん、辞めたらが膝枕してくれる時間が増えるし、辞めなくても一緒にいれるからどっちでもいいや。」と思ってたから、その通りのことをに伝えてた。そんな俺には、にこりと笑うだけだったけど、跡部からは「何でお前も止めねぇんだよ」って怒られた。
跡部がに対する感情とかじゃなくて、部長とマネージャーとして、考えてたのは俺にも解っていて、もきっとそれは理解していたと思う。
でもやっぱり、理屈じゃ割り切れないことがある。と俺は考えるのだけど、跡部には黙っておいた。跡部には跡部の役割があるし。










「じゃぁ部活行こうかな。」



うーんと、伸びをすればが背中についた草や砂を払ってくれた。














「おい、滋郎。はやくコートに入れ。」



跡部は決して、長いお説教なんかしない。そんなことするくらいならサーブ練習した方が効率が良いってことをちゃんと知ってるからだ。
そして、それをきちんと自分で証明してる。白線のギリギリ手前まで、ボールを打ち込んだ跡部を横目で見る。







俺が跡部に望む事はただ一つ。その強さを失わないこと。
これからも跡部が何の妥協もしないように、人の弱さを救わぬ正義を貫く様に。
その強さは、には全く必要ないけど、俺たちのトップには必要だよ。





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あれ?これ何の夢? なんだか恥ずかしくなった。