ふつふつと煮立つお湯の中にパラパラと塩を落とせば、その白いつぶつぶは一瞬でとけて見えなくなった。あたしは二人分のパスタを小さな鍋に押し込みながら、横のプライパンの白くドロリとしたソースを木杓子をとって、かきまぜる。あの人が「また?」と困った顔をするのが、うっすらと頭の奥に浮かんだ。









日曜日のパスタ

































渡邊さんとは、半年前に友達が開いた飲み会の席で知り合った。合コンとかじゃなくて、友達が企画して開いていた音楽系のイベントの打ち上げの席で。あたしとは真逆のサバサバとした性格の女友達の、やっぱりサバサバとした彼氏の高校時代の友人が渡邊さんだった。普段は聞かないどこかのネイティブ民族の音楽を爆音で聞かされて、少し疲れて隅で座っていたあたしに、「顔色悪いけど?」と声をかけてきてくれたのが渡邊さんだった。




初めて見た時は、何の仕事してる人だろうかと疑ったけど、どうやら中学校の先生をしているらしい。おどろいた。渡邊さんは、椅子の上で膝をたてて座ったり、大声で話したり、あたしが今までなるべく苦手としてきた方の男の人だと思う。それでもあたし達がこういう関係になっているのに、「中学校の先生」というちゃんとした肩書きがあるのかもしれない。心の端でひっそりと、そう思った。













ちゃん、またスパゲッティー作ったん?」






渡邊さんがさっき予想した通りの顔をして、机の上におかれた湯気のたつクリームののったパスタを見ている。「昨日はドリアやったよ。」と言うと、「味おんなじやん」と笑われた。





高校の時に付き合った男の子とは、二人ではやりのレストランを雑誌なんかで探しよく食べに行っていた。大学の時の人も、この前まで付き合ってた会社員の人もあたしが作ったパスタやオムライス、サラダなんかを何も気にせずに自然に食べてくれていた。
出会った日に、ちょっと気になって、渡邊さんの高校や大学時代を聞いてみたら、「ずっとテニスしとったわ。」と煙草をふかしながら言われた。その後に、「女の子もさんみたいなタイプと付き合うたことはないなぁ。」と煙草吸いの歯を見せて、ニカッと笑われた。









渡邊さんは、たまには和食なんかも食いたいなぁ。と言ったりする。
はじめは和食も食いたいて言っていたので、おひたしとカボチャの煮付けと、鶏肉を梅肉で和えたものを出したら、神妙な顔つきで食べていた。それから渡邊さんは「肉とかラーメンとかがっつりしたもんも食べたい。」と言い方を変えるようになった。

















「でもちゃん、俺が言うても変える気、全くないもんなぁ」






渡邊さんの笑い声をふくんだ言葉に、長いパスタを巻き取るあたしの手が一瞬固まる。







「まぁ、別に俺は結局なんでも食うし」








チラリと投げかけられた視線は、「この人は、全部解っている。」とあたしが気付くのは十分で。そのうえであたしのことを肯定してくれているのか、否定されているのかは解らなかった。ただ、頑なにパスタやグラタンなんかを作り続けるあたしの背中には、ひやりとした汗が滲んだ。








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女の子らしさをもって、みくだす。