駅前の高架下のシャッター閉まった店の前で光を待って30分。彼はいっこうに姿をあらわさない。電話してもでーへんし、何やってんの。と思ってたら、光の代わりになぜが酔っぱらったおっちゃんが現れて、あたしの前でがなりはじめた。あーあ、待ち合わせ、環状線やなくて地下鉄の方にすれば良かった。











サブリミナルな彼の愛し方


















おっちゃんは別に怒ってどなったり、嫌らしい目であたしを見ているわけではなく、ただ単に大声で話しかけてくるだけやったけど、通りすがりの人々の奇異の目にさらされて一人で立っているあたしは、なんとなく不安を覚える。




おっちゃんの長い話に「はぁ、はぁ」と適当に相づちを打ってたら、光が自転車を押しながら、フラッとおっちゃんの背後に現れた。あたしとおっちゃんを見比べて、少し怪訝な顔をしている。ほんで、自転車をその場に止めて、おっちゃんにもあたしにも声をかけることなくガードレールにもたれて、あっこいつ、傍観者を決め込むつもりやな。
光が来てすぐ、おっちゃんは満足したのか、「ねーちゃん、ほなな」と行って商店街の方にふらりと歩いて行った。その後ろ姿を見送るあたしに、光が近づいてくる。








「何してんの?」
「いや、わからん」
、あのおっさんと知り合いなん?」
「全然知らん。」







ふーん、と光が呟いてその話は終わりになった。あたしはおっちゃんのせいで光の遅刻を怒るタイミングも逃してもおて、気持ちの行き場のなさに手をブラブラさせる。







「光、自転車できたん?」
「うん」
「駅にとめとくん?」
「いや、今日チャリで行こう思て」






「え?」とあたしが声を上げる。「USJ行くんちゃうの?」と。






「チャリで行ったらええやん。別にいけん距離でもないやろ」
「いや、そやけど。道わかんの?」
「解らん適当。」








ほら、はよ乗れや。と光があたしを荷台に促す仕草は乱暴だ。今日スカートやのに、とぶつくさゆうと、「のんなんか誰も見てへんわ。」と吐き捨てるように言われた。ひどい。








結局、光はUSJの方向へと自転車を走らせることなんかなく、町中に連れて行かれた。こいつ、最初からこのつもりやったな。と憎らしく思う。

「あんなん、何がええねん。」とビルに大きく張り出された話題の映画のポスターを見ながら光が毒づく。「えー見たいけど」と言ったあたしを光がバカにしたように、鼻で笑った。ちょっとムッときて「あれ見たん?」と聞いたら「見るわけないし」とまた鼻で笑われた。見てないんか、お前。
あたしにはよく解らんけど、光はみんながこぞって好きになるのよりも、ちょっとマイナーで、知る人ぞ知るってのが好きみたい。でも、そんな光にちょっと笑ってしまうあたしがいることは、絶対に内緒だ。








(タワレコに向かうエスカレーターで、光に「何のCD買うのん?」と訪ねたら「どうせゆうても知らんやつや」と言われてしまった。あたしはこっそり光のことを格好つけださって思う。)







でも、光があたしのお尻が痛くないように自分のタオルを自転車の荷台にひいてくれてるとこと、あたしが買った荷物を当たり前の様に定員さんから受け取るとこと、あたしが好きなケーキの種類はちゃんと知っていて、店の雰囲気に流されずにケーキの美味しいところを探して連れて行ってくれるとこは、格好いいなぁと思っていることも、面と向かって言えないので内緒。






--------------------10.03.04
とりあえず、財前を知るための話。