光が全国大会から戻ってきた。練習やなんやかんやで何週間ぶりに光の顔を見た。
別に口数は多いわけじゃないけど、部活のことに毒づくのは好きな光。その話をあたしはいつも光はテニス部楽しいねんなと思って聞いてるし、楽しみにもしてる。
でもごめん、今はあんまり聞かれへん、かも。

















こっちむいてベイビー!






























「ほんでその先輩がな、」
「うん、」
「東京行っても、きもいままで、」
「うん、」
「エクスタシーっていっつも言いよんねんけど、」
「え?靴下し?なんで?その人、裸足でテニスしてんの?」
「誰がボキャブラせーゆうてんねん。」






ベッドの上の光があたしに靴下を投げつけてきた。ひどい。






「っていうか、お前、俺の話聞いてへんやろ?」
「聞いてたよ。テニス部の部長やろ。」






ほら、あの毒草小説の、イケメンの、と付け足すと、もう片方の靴下もとんできた。なんなん。










「お前、パソコンばっかやな」
「ちょお、もうちょい待って。もうすぐで落とせそうやから」
「何で俺のでやんねんな。」
「いや、家帰ってたら時間ないし、やり方わからんし。」










あたしの目はさっきから、パソコン画面の可愛い鞄に釘付けだ。
だってこれ、この前雑誌に載ってたのを見て可愛い!と思ってお店に買いに行ったら、もう売り切れてたやつだ。それがオークションにでているのだ。








「教えんといたら良かった。」






光がベットの上から、床に座ってパソコンをしてるあたしをつまらなさそうに見下ろしている。
さっき、ネットをしていた光が「これ、お前が欲しがってたやつちゃうん。」と教えてくれた。残り時間の赤い文字に、あたしと光の場所が入れ替わってしばらくたつ。
光はいつも自分がパソコンやってる時にあたしの話なんか一切聞いてくれへんくせに、あたしは相づちうってる分、話に身が入らないくらいのことは許して欲しい。
















「あと10分やでー。もーいれる人おらんよな?」


「あー絶対ほしい。めっちゃ可愛いもん。」


「見て光!あのワンピースとめっちゃ合うと思わへん?」


「ほら、あの前に買うたやつ。」


「ここで出会えるとかもう絶対うちのにすべ、うわっ」









全部言い終わる前に、あたしの背中に重みがかかった。びっくりして、床に手をついて体を支える。







「え?光、何?重い…」
ー」
「ん?」
「俺な、」






あたしの背中により一層の重みがかかった。
布ごしに男の子の体つきと、体温が伝わってくる。え?何?光、いっつもそんなんしーひんやん?混乱するあたしをよそに、光がずるずると体重をかけてくるから、あたしはまともに座ってられなくて床に背中をつけるようにして体を横たえる。そしたら光があたしに覆い被さって、鎖骨のあたりに顔を埋めて、んーと声をだした。









「もーしんどいねん、わかるやろ?」







そう言った光がどんな顔をしているかは見えなかった。いや、見られないようにあたしの胸に顔を埋めてるんだろう。あたしは、そこでやっと、光が結構参ってしまっているのに気付いて、あ、これ東京で何かあったんやなぁと今更ながら思った。光、ごめん。ちゃんと話聞くよ。という気持ちをこめて髪をなでたら、光はそのまま動かなくなった。
色んなスイッチが切れてしまったらしい光が口を開くまで、もう少しこのままかーと光の頭の重みを受けながら、その暖かな感覚の心地良さにあたしはそっと目を閉じた。



そして、あの可愛い鞄がどうか無事にあたしの元へと来てくれますようにと心の隅でこっそり祈った。






---------------------------10.03,05