「あー!ほんとにボタン全部無くなってる!」













跡部のブレザーを見て、あたしは思わず大きな声を出した。
部室に入っていきなりその声を浴びせられた跡部は、嫌そうに顔をしかめる。




卒業式が終わり、クラスの子と話し終えた後にテニス部の部室に行くと跡部はまだ来てないようで、その場にいた忍足が「さっき制服のボタン全部とって、華麗な仕草で女子の大群の中に投げ込んでたで。」と教えてくれた。
なんだそれと思って、部活で待っていると、現れた跡部の制服のボタンが本当に全部無くなってたので、思わず声をあげてしまった。









「だからゆうたやろ?」






後ろで忍足があきれながら言ってるのを聞きながら、おそるおそる「あたしのは?」と訪ねると跡部からは「お前、欲しいなんて言ってなかっただろ」と事もなげにかえされた。




あー・・・欲しいと思ってたのになぁ。






ちょっと残念なのと、跡部に言っておかなかった後悔がぐずぐず胸にわき出た。




でもあげちゃったもんは仕方ないもんなーと、自分に言い聞かせる。
だってあたしは他の女の子とは違って、次の春からも高等部で跡部と手を繋いで学校に通えるんだもん。だから、ボタンくらい我慢しなきゃ。















「おい。何、不機嫌になってんだよ。欲しかったのか?」






あたしの様子を見てニヤニヤと笑いながら跡部が言う。
そんな跡部の態度をちょっと、鬱陶しいなって思ったけど、跡部のこんな態度は今更怒るほどでもないことだったので、「うん、第二ボタンは欲しかった。」と素直に返す。




そしたら、3年後に高等部を卒業する時こそは、絶対もらおうと意気込んでいるあたしの顔を跡部はじっと見つめてきた。「何?」と怪訝な顔をしたあたしに何の返事もせずに、制服のポケットから携帯電話を取り出してボタンを押す。















「樺地、俺様のボタン持っている女、全員洗い出して回収してこい。」






「ウス」と返事したであろう電話を切って、跡部はあたしの方に視線を戻して笑う。







「跡部、もらっ・・・」
「どれが二番目なんざわかんねぇだろうから、全部で良いだろ?」













”もらった子が可哀想だから、もう良いよ。”




言おうとしていたそんな言葉はもはや出てこない。
せっかく自分に言い聞かせて、作り出した善良なあたしを、跡部はいとも簡単にぶっこわす。ああ、やっぱり跡部の何もかも、それがボタンの一つでさえも、他の女の子じゃなくて、あたしのものになって欲しい。跡部と一緒にいると、あたしはどんどん嫌な女の子になるなぁ!

















もう全部ください。




(でも、とりあえずあたしはこの最大限に嬉しい気持ちを素直に伝えよう。)









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卒業シーズンなので