寒い。布団の中で身をよじると、足下からひやりとした感覚がせり上がってくる。肩まで布団を被ってみたけど、その冷たさは取れない。この家で寝る時にいつも使わせてもらっている電気毛布はなぜかもうその機能を果たしていなくって、スイッチをカチカチしてみたり、コンセントを確認してみたけど、どうやら壊れてしまってるらしかった。 しん、と静まりかえる闇の中、あたしは寒さによって眠りにつくことができないでいた。この家特有の張り詰めたような空気は、冬の寒さをより一層深くしているように感じる。そっと自分の体を覆う布団と毛布をどけて、体を起こす。更に冷たい空気が、薄いパジャマを一枚着ただけの、あたしの表面をせめて、思わず肩をすくめた。すぐに枕元に置いていた、おばさんがいつも貸してくれるカーディガンを羽織って部屋を出た。 ギ、とあたしの体重で床が音をたてた。みんなが寝静まった他人の家なのと、氷のように冷たい床板の感触に、あたしは思わず慎重に足を這わせる。今日はおじさんとおばさんはいないけど、おじいさんや遊びにきている左助ちゃんはきっともう夢の中だ。幼い頃からの遊び場だったこの家のことをあたしは知り尽くしている。 大きな音を立てないように、襖を開けて弦一郎の部屋に入る。真っ暗な部屋から、規則正しい寝息が聞こえてきて、弦一郎の気配を感じる。あたしは部屋の真ん中に敷かれた布団のそばに座って、小さい声で「弦一郎」と名前を呼んだ。でも彼の眠りは深いらしく、ピクリとも反応しない。それが、あたしを少し不安にさせる。 そっと布団のはしを捲った。弦一郎の横に、自分の体を潜りこませる。 成長期の男の子の為なのか、それとも他の子に比べて大きい体格だからなのか、弦一郎の布団は普通のものより一回り大きい。だから、私は弦一郎の隣にすっぽり収まった。予想通り、十分に温度をもったその場所は、あたしを温かく迎え入れてくれて、あたしは弦一郎の体温と、その臭いに異常に心が満たされていくのを感じた。 「・・・ん?」 さすがに異変に気付いたのか、弦一郎が声をあげる。しばらく、何が起こっているのか確認しているような間があって、確かめるような低い声が冷たい空気を優しく伝ってあたしに問いかける。自分の寝床に進入してきたのがあたしだって認識した弦一郎の雰囲気が、一瞬緩むのがたまらなくあたしを喜ばせる。 「、お前、何をしている?」 「・・・さむい」 「自分の寝床はどうした」 「電気毛布の電気つかない」 本当だよ、という証拠に自分の冷え切った足の先を弦一郎の温かい足に絡める。弦一郎があまり、いい顔をしていないのは見なくても解った。でもあたしはやっと得られた包み込まれるような温かさと、とたんに襲ってきた眠気に、もうさっきの場所には戻りたくないと、頭まで布団にもぐりこんだ。鼻が弦一郎の胸のところにあたった。 「だからといってお前、」 「じゃぁ、弦一郎があっちで寝て。わたしここで寝る・・・。」 たしなめようとする弦一郎に、布団のせいでモゴモゴとするあたしの言葉が聞こえたのかはよく解らない。ただ、ため息をついた後に、体を少し向こうにずらして彼の空間にあたしの居場所を作ってくれたのを心地よい眠りに落ちてきながら、何となく感じた。 朝目覚めると、布団の中に弦一郎の姿は既になく、代わりにまだ熱を持つ湯たんぽがあたしのお腹のあたりに置かれていた。夜に、あたしが弦一郎のお腹に丸まったみたいに。あたしはまだ少しだけ残る弦一郎の気配に、息を深く吸い込んだ。 その、あたたかな -----------------------------10.03.12 幼なじみで両思いくらいがいいなー。 |