小さい頃から、あたしが褒められたりお礼を言われたりすることは、決して勉強や運動なんかじゃなかった。幼なじみの首がカクンと落ちれば、横からつつけばよかった。教室からいなくなったら、探しに行ってあのくせっ毛の頭をゆすればよかった。
周りの大人はその度に、「面倒見が良いね」とあたしを褒めた。






別に褒められようとしてやってるんじゃなくて、ジローと一緒に育ったあたしの体には、その行為がごく自然に、習慣として浸みこんでいたのだ。トイレに行くのと一緒で、嫌いも好きもない。












「起きて!」










時計は朝八時を指している。
あたしはジローの部屋に入って、彼が丸まっている布団をベリリとはがした。昨日、跡部から電話があって、「明日は朝練ねーから、滋郎の奴は自分で起きねーぜ」と言われたそれは、”お前が連れてこいよ”というお達しだ。
なんであたしがそんなことを、と少しくらいは思うのだが、跡部にも宍戸にもクラスの担任にとっても、「だから」という理由で、あたしはジローのお世話係になってしまってる。でもそんなの小学校のころからで、もう慣れっこだ。








、うるさい」






布団をとられたジローは、少し不機嫌そうに目をこすりながら言った。ひどい態度だ。
毎回毎回、ジローの部屋まで起こしにきているのに。でも大抵、朝のジローはこんな感じ。面倒くさそうしてて、「起こしてくれてありがとう」なんて今まで言われたことないや。








「ジローが自分で起きないからでしょ」
が起こすから俺が起きれないんじゃん?」
「起こさなかったら遅刻するでしょ!?」






あたしがキイとヒステリックな声を上げたら、ジローはやっと起き上がった。
早く、早くと急かしてジローが着替えている間に、あたしは彼のリュックに今日の部活で使うだろうユニフォームとタオルを詰め込む。小学生のころは時間割もあたしがそろえていたのだけれど、最近は教科書を全部学校に置きっぱなしにしてるみたいでその必要は無くなった。






ジローが顔を洗ったり歯を磨いてる間に、おばさんからジローのお弁当と、朝ご飯のパンに色々挟んだのを受け取る。あたしの分のもくれた。
あたしはおばさんのご飯は大好きで、今日もお母さんに「ジローん家でもらう」と朝ご飯を断ってきたので、笑顔でお礼をいった。








、何してんのー?」





おばさんと雑談しているあたしを急かすようにジローが玄関から呼ぶ。お前が言う台詞じゃないだろ。とか思いながら、もらったパンを鞄につめこんで、あたしはジローを追いかけた。




ジローのこぐ自転車の後ろに乗って学校に向かう。ジローの家から学校までは15分くらいだ。ジローの髪を通った風があたしの鼻に触れる、さっきまでいたジローの部屋のにおいがした。












「ジロー、おばさんに朝もらったよ」
「まじまじ?何?」
「今日ロールサンドだった。」
「えー食べさせて」
「今?」
「うん。腹減ったC」
「やだ。危ない」
は運転してないじゃん。」






拗ねたような口調を使うジロー。
あたしはポケットを探って、イチゴミルクのアメを取り出して、カサカサと包み紙を剥く。






「食べたいなら、もっとはやく起きれば良いじゃん」
「もうちょっと早く起こしにきてー」




人に起こされているくせになんてこと言うんだとか思いながら、あたしは手をのばして自転車をこぐジローの口にアメをいれる。








「朝練の時は自分で起きてるのに」
「だって俺、自分で起きるよりが起こしてくれるのが、一番起きれるC。」














ジローが口の中でアメを転がしながら言う。
そんなジローを見つめながら、今朝の態度を思い出して、あれが一番ご機嫌に起きれてる姿なのか、と出会って15年目にして初めての事実をあたしは知った。
















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学校について、仲良く朝ご飯食べてるといいな。