忍足侑士と付き合って、結構な年月になる。


つきあい始めた中学生の頃、あたしは毎日学校に行って侑士に会うのが楽しみだった。その頃の侑士はテニスに一生懸命でデートする時間なんてほとんど取れなかったけど、放課後の練習を見に行ったり一緒に帰ったりなんかしてそれなりに恋を育てていた。










「侑士」
「ん?」







見慣れた部屋の中でDVDを見ながらだらりと横になった侑士の背中に声をかけると、少しも体制を崩さずに短い返事だけが返ってきた。あたしと侑士の淡々としたトーンの会話が部屋の中に流れる。








「今度、お台場デートスポット行かない?」
「お台場?なんで?」
「たまにはちゃんとデートしたいなぁと思って」
「えーだるいやん。あと金ないし」







予想通りの侑士の反応に、なんだかなぁと体の力抜けた。
今もテニスをやって忙しくはしているけれど、中学生と違って使えるお金も行動範囲も増えてデートらしいことをしても良いんじゃないかなぁと思う。いつもどっちかの部屋か、買い物で街をぶらっとするか、ちゃんとしても映画くらいだ。しかも侑士の好みでラブロマンスをみることが多いのに、彼は淡々と批評をするだけでまったく甘い雰囲気にならない。






侑士はこっちに背中を見せたままだし特にやることもなくて、乱雑に置いていた侑士の雑誌を手に取った。何ヶ月前かの雑誌で何度か読んだものだけど、暇つぶしくらいにはなるだろう。








「うん?」







今度は侑士があたしの名前を呼んだ。





「俺、お前のこと好きやで」






突然の侑士の言葉に、あたしは顔をあげて彼を見た。さっきまでテレビの液晶を見ていた侑士の目もあたしを見ていた。そんな侑士の様子にすぐピンときた。








「ん、あたし別に怒ってないよ?」
「あ、そうなん。」







「なんや、怒ったんかと思った」とか呟いて、侑士はまた背中をこちらにむけた。





侑士があたしのことを「好き」だと言うのは、あたしが怒ったり機嫌が悪くなったりすると使われるものだ。侑士があたしに好きだと言うことは珍しくないけれど喧嘩以外の時に、普通の恋人同士のように使われることは滅多にない。




本当に怒っている時は、「好き」という言葉を都合の良いように使う侑士に神経を逆撫でされたりもする。それでも、「好き」を使うことで侑士があたしとの関係をつなぎ止めようとしてくれていることは嬉しい。







「侑士、」






もう一回あたしが侑士の名前を呼んで、今度はきちんと目があうように後ろから侑士に覆い被さるようにして顔を覗き込んだ。侑士の目にかかった鬱陶しい前髪をよけると、「お、」という顔をしてあたしを見ていた。







「デートはしなくていいからさ、」









飽きた、もう一回




(好きって言って?)











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企画・あいかわず様。参加させていただいてしあわせです。

ヒナアットマシュデリ