あたしの左手にはユウジ君の右手、ユウジ君の左手には小春ちゃんの右手。
ユウジくんの表情はご機嫌ともいえない様で、まっすぐ前を向いている。













あたし達は学校の校門を出て、駅まで三人一緒に歩いた。会話はずっと小春ちゃんが楽しそうに色んなことを話してて、ユウジくんは小春ちゃんが隣にいるのに珍しく無口で、あたしはといえばユウジくんの顔色をうかがってばっかりだった。
あたしはユウジくんが好きだ。でもそのことをユウジくんが好きな小春ちゃんに相談するのってずるいってユウジくんに思われている。ユウジくんはさっきから、「こんなんなったん、どうせお前のせいやろ」っていう目であたしを見てくる。





小春ちゃんとユウジくんが利き手同士をつないでいるので、電車の定期を取り出す時とかに二人はたまに手を離したりした。あたしとユウジくんはどっちも利き手じゃないのでずっとつないだままでいれる。だから小春ちゃんは「ちゃんはユウくんの右側にいきなさいよ」とあたしに教えてくれたのか。












「あんたら、どっちも利き手使えるから、便利やろ。そのまま家かえりや」




小春ちゃんは自分の降りる駅に着くと、お母さんを思わせる満面の笑みで電車の中のあたし達に手を振った。そのまぶしい笑顔に、ユウジくんが好きになるのもわかる、とうらやましく思った。


小春ちゃんが去ってしまうと、残されたあたし達はさっきよりももっと会話が減ってしまった。けれど、ユウジくんの右手はあたしの左手を振り払うことをせず、それが意味するものは、とあたしは期待してしまう。
あたしの動揺がつたわったのか、ユウジくんの手に少しだけ圧力が加わって、「小春がそのままにしとけってゆうたから」と投げるように言われてしまった。












「ユージくん、左利きの人って寿命短いねんて」




何か話題はないかと思って、どこかで聞いた左利きの話題をだすと、ユウジくんは「お前、なんでそんなん言うねんな。嫌な奴やな。」とますます機嫌を悪くしてしまった。あたしは「あ、ごめん。」とすぐに謝ったけど、ユウジくんの機嫌はなおらない。
プシューと目の前のドアが開いた。あたし達が降りる駅だ。あたしが先に降りて、ユウジくんが後に続く。乗り込んでくるおじさんとドンってぶつかったけど、あたし達の繋いだ手は離れない。







「あんな、世の中のものは右利きの人にあわせて作られてんねんて。やから、左利きの人はちょっとずつストレスたまって、死ぬの早いねんて」


「・・・世の中のもん、全部俺にはあわせてくれへん。」





ちょっと卑屈っぽく言ったユウジくん。あーうん、ユージくんってちょっと変わってるもんね。と思ったけど、本気で口を聞いてくれなくなりそうで声にはしなかった。
右利きのあたしが改札機に二枚の切符を入れて、手をつないだまま改札をすり抜ける。












「うちはな、ユージくんが早く死んでしまうん嫌やから、ユージくんにあわせて生きるわな。」


「ほな、もう俺につきまとうんやめて。」










一世一代のあたしの告白にも、ユウジくんはあいかわらず優しい言葉なんかかけてくれないし、目つきはけわしいままだった。目線もあたしの方になんか向けてくれることなく、まっすぐ前をみつめてるだけやった。


けれど、さっきまで冷たかったユウジくんの右手の温度がすこしあがってくるのを、自分の左手で感じて、あたしはそれだけでもう、目眩がする程の幸せを感じた。















目に見えなくても愛してる







----------------------------10.02,28
企画・私の彼は左利き様。参加させて頂いてしあわせです。


ヒナアットマシュデリ
(白石か甲斐君の夢を書くつもりだったのに、ユージの名前がなくて笑ったので)(内緒)








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