昼休みの学食は、人が混雑しててあかん。
謙也が今日は「弁当ちゃうからパン買うかうどん食べる。」ゆうてついてきたったんはええけど、アロエジュースは置いてへんし俺はあんま用事ないなぁ、と詰めかける生徒達を遠目に眺める。
ところが、その人混みの中に頭一つ分だけでた背丈とボサボサの頭を見つけて、あれ?と目がいく。







「千歳やん。めずらし」






                 
横で謙也も同じように気づいたようで、人が混み合っている昼間の学食ではあんまり見ることのない千歳に「おー」と言って手を振った。








「あー。おはようさん」
「おはようってお前、今きたんか?」






千歳の肩にかかった鞄を指さしながら聞いたら、本人は「ついでに学食よったんよ。」と相変わらずの笑顔で答えた。






「うわ!千歳それ板チョコパンやん!」





突然、謙也が驚いたような声をだした。どうやら千歳の手に持っていたビニール袋の中身に反応したらしい。







「こん?」
「せや、それ二個しかだせへんからめっちゃ人気やのに」
「適当に選んだけん。謙也、食べよる?」
「え?ええの?」
「別にこだわって買ったんじゃなか。良かよ。」
「ほな俺かわりのパン買ってくるわ、待ってて。」








謙也が嬉しそうに人がごった返してる売店の方に走っていく。その姿を千歳と見送りながら「今日の部活くんの?」みたいな話をする。
千歳は相変わらず「気が向いたら」とはっきりした答えを出さへんで、それ以上言うても無駄やなぁ、と思っていたら今度は謙也とはまた別の千歳を呼ぶ声が聞こえた。






「あ!千歳おはようー!」







その声に千歳と一緒に振り向くと、千歳と一緒のクラスのさんがこちらに近づいてくるところやった。千歳と一緒におるのをよく見かける子でもしかしたら千歳の彼女かもしれへんけど、俺は千歳とそういう話はあんまりしないので実際の所はよくわからん。
でもまぁ、「お、〜、おはようさん」といつも以上ににこやかに笑う千歳とそんな千歳の腕を嬉しそうに叩いたさんのナチュラルさを見る限り遠からずやろ。









「あー千歳、それ板チョコパン?なんで持ってんの?」
もこのパン知ってるたい?人気なんね。」
「うん、でもそれあんま買えへんやつやねんで。一口ちょうだいー」
「良かよ。」
「やったー。あ、あたしジュース買おうと思っててん。千歳一緒にご飯たべよ。」





二人の会話は思った以上にすらすらと進み、俺が「そのパン謙也と…」とつっこむ前に、さんは早口に千歳を昼飯に誘って、先に自販機の方に行ってしまった。







「そいうことたい、すまんね」






千歳は謙也の帰還を待たずにこの場を去るつもりらしい。俺の方に向き直って、さらりと謝りの言葉を述べて千歳は自販機の前にいるさんの方へと歩いていってしまった。
せめて謙也には直接謝っていけよ。




千歳の背中を見送りながら謙也落ち込むやろうなぁとか思って、でもまぁ千歳にもテニスと橘くん以外に執着できるもんあるようで安心したわ。










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