午後の授業になると窓から差し込む光がやわらかくて、あたしはつい机と仲良くなってしまう。机の上は配られたプリントや使ってない教科書がバラバラと散らかっているけど、襲い来る睡魔に物と物の間に腕を枕にして腕を埋める。 「さん、」 心地よい優しい声が右隣の席から聞こえる。あたしの隣の席の佐伯くんだ。 あたしは自分の腕を枕にしたまま、顔だけを右に向け「ん?」と声の主に返事をする。 「眠い?」 「うん」 「今日はあったかいもんね」 「・・・うん」 「お昼、お腹いっぱい食べたの?」 「・・・結構」 「そりゃ眠くなるね」 佐伯くんは整った顔に頬杖をついてあたしの方を眺めている。その表情はさっきから、優しい微笑みを崩さない。 「・・・佐伯くん」 「何?」 「寝かす気ないんでしょ」 会話が終わってもあたしから視線を外さない佐伯くんに、文句を言うように口をとがらせると、佐伯くんはそのままの笑顔で、「あはは、ばれた?」と楽しそうに笑った。 「ジローちゃん」 「ん?」 「もう起きる?」 「んーまだ眠い」 「ほんと?」 「うん、も一緒に寝る?」 「寝ないよ」 「寝ないの?」 「どうしようかな」と笑うが可愛すぎて、眠気は吹っ飛んだけどまだ眠いふりをした。そしたらもうすぐが俺のお腹を枕にして眠るだろうから。 「さん、今何時だと思ってんですか?」 「うーん、何時?」 「3時半ですよ、真夜中の」 「そっか、外暗いと思ったー・・・」 「で、何ですか?この時間に電話なんかしてきて」 「日吉、怒ってる?寝起きだから?」 「・・・そりゃ誰でも怒るにきまってる」 「うん、声が怖い。」 「今まで寝てたからっすよ」 「うんー、ごめんね」 「そんなことよりなんなんですか、用事」 「えー怒ってるよね?」 「怒ってませんよ」 「絶対怒ってる・・・」 「さっさと用件を言わないと怒りますよ?」 「えーっと、なんか起きたら夜だし怖くて日吉の声が聞きたくなっちゃっ 「おやすみなさい」 (あ!電話きれた!)(ひどいよ日吉!) あたしと侑士が今日の夕方になんとなく会って、なんとなくデリバリーを取って「味付けが濃い」とか「酢豚はたいがい美味しい」とか言いながら中華を食べ、小さい頃からやってる人気のバラエティー番組をなんとなく眺めて、お風呂上がりにあたしが侑士のサンダルを履いてコンビニに行って明日の朝ご飯になりそなパン買って、目についたヘア雑誌を買う。それは侑士の髪が鬱陶しそうだから 帰ってくると侑士は昼間の練習ですっかりお疲れで、布団の中に入ってテレビも付けっぱなしで眠っていた。その寝顔に「出前じゃなくてなんか作ってあげれば良かったなぁ」とか少し思ったりして、あたしはテレビのチャンネルを消した。 「おやすみ」 あたしが侑士の隣にもぐりこむと、寝ていると思っていた侑士の腕がグンと伸びてきてあたしの顔に唇を寄せてキスをして、「おやすみ」低い声が一言だけ告げた。 長椅子に座っている跡部くんの体の左側に自分の背中をくっつけると、思ったよりも跡部くんの体温が温かかったことに驚いた。首だけ後ろにまわして跡部くんの様子をうかがうと、あたしのことなんか気にもしなていない様子で黙々と練習メニューをまとめているようだった。 てっきり叱られるか振り払われるかと思っていたあたしの気分は良くなって、もう少し跡部くんの背中に体重をかけた。 「重いだろーが」 跡部くんが口を開いた。これはこれであたしの気分は良くなる。 だって跡部くん、さっきから机に向かってばっかりであたしと話はしてくれなかったから。 「それ終わるの、まだ?」 「ああ」 「どんくらい?」 「さぁな」 「えー。待ちくたびれたよ」 「。お前うるせーな」 跡部くんが声を出す度に、体の小さな振動があたしの背中に伝わってくる。あたしの振動も跡部くんに伝わっているのだろうか。 「邪魔すんじゃねぇよ。寝てろ。」 「子守歌うたってくれたら寝るよ。」 あたしの言葉に跡部くんは視線はプリントに向けたまんま、面倒くさそうに意味不明の歌を口ずさんだ。きっと英語かドイツ語だろう。あたしが「ねんねんころりよが良い」とリクエストすると、やっぱり面倒くさそうに「ね〜んね〜ん」と歌なのか呟いてるのか解らない子守歌を歌ってくれた。小手先の子守歌にあたしは満足して、跡部くんがあたしの方を見てくれるまで少し眠ることにした。 |