跡部が家にこいなんていってくれるもんだから、(勝手に押しかけてるんだけど)
丁度借りているDVDを持って彼の家のミニシアターを使わせてもらおう、なんて考えて、少しウキウキしながら玄関で靴を履いた。


時計は23:45分を示していて、ドアをあけると一等星が輝いているのが見えた。










恋だとか恋じゃないとか
















玄関で迎えてくれた跡部は 綺麗な眉毛を歪めて 少し鬱陶しそうな顔をしていた。



「・・・」



「良かった、寝てなくて」



あたしは跡部を見上げて笑ったのに、跡部はあたしが持っていたDVD(笑う犬の生活)をみて



「シアターはダメだぞ」


と言った。






そして跡部の部屋に通されたので、仕方なく部屋の片隅にあるDVDプレーヤを起動した。





「跡部ん部屋、久しぶりだ。昔はよくきたのに」


あたしはケースからディスクを取り出しながら言った。





「昔からお前が人の都合は無視して押し掛けてきてんだよ」




後から入ってきた跡部は相変わらず少しだけ不機嫌だった。



多分、もう寝ようとでもしてたんだろう。


でも明日は部活がないことをあたしは知ってる。









あたしが画面に釘付けになっている。  跡部は多分読みかけだったであろう 本に目を通している。



あたしは画面に釘付けになっているふりをしている。




だってそうじゃないか、 

広い部屋に跡部と二人きりで会話もない なに、この 雰囲気




こんな空気になるのは 予測済みだ。
無理矢理きたのはDVDをみたいからじゃない。
あたしはまだ昔を懐かしがっている。









本当は大好きなネタが目の前でやっているのに、神経は背中に集まっていて笑うこともできない。





「ねぇ、」



「あ?」


あたしが声をかけると跡部は本から顔をあげて返事をした。







「最近どうなの?」


「何 言ってんだ?同じクラスだからだいたいわかるだろ」


相変わらず跡部は鬱陶しそうに答えた。



「違う、あのマネジャーの子」


少し間を置いて、あたしは聞いた。その答えに跡部は「あぁ」と答えてから、また「別に」と答えた。




クラスが違うけど、可愛くてしっかりした感じの印象のあの子をおもいだした。

喋ったことないからわかんないけど、 とっても性格がいいらしい。

あの子もこの部屋にきたりするんだろうか。 いや、付き合ってるなら来るよね








窓際のなまはげ人形はあたしが小さい頃、旅行で行った東北のおみやげにあげたものだ。

跡部の部屋にはすごく不釣り合いなのに、もう十年近くあの場所に置いてあって、それだけが変わってない。



そういえば、そのお返しに跡部からはどこぞの国のすごい細かい細工のオルゴールをもらった。



すごい差だなと 思って、なまはげを眺めていると今度は跡部が聞いてきた。



「お前こそ、どうなんだよ?」





あたしはやっぱり少し間を置いて


「どうもないよ、もうすぐ別れるけど」

と答えた。



「またかよ」


「ほっといてよ」


良いよね、一人の子と長くつきあえて!

と 付け足すと跡部は「そんなことねぇよ」と呟いた。




そんなことないならどうして付き合ってるんだ。








「まぁ、そのうちいい奴みつかるだろ?」




元気づけるように言った跡部の言葉に

            涙がでそうになった。








いつだっただろう、



友達伝いに跡部が自分の部のマネージャーと付き合いだしたこと聞いたのは。


お母さんが「景吾くん、家の前で可愛い女の子といたわよ」って嬉しそうに話してたのは。









先を越されたって悔しがって、丁度良いタイミングで告られた男前の先輩と付き合って、

でも、気持ち悪くてすぐ別れて



そのころだ。

なんとなく、跡部と話さなくなったのも 呼び方が景チャンから跡部に変えたのも








もやもやの気持ちの正体に気づいたのは 笑いあって話す跡部と彼女を見た時だ。








あぁ、そうかずっとそうだったんだ。




「あたしのこと、すっごく理解してくれる人と付き合うの」




あたしは跡部の方に背中を向けたまま呟いた。


それは跡部にも聞こえたようで。





「いんのかよ、そんな奴」


という返事が返ってきた。











どうせ前と違って今はろくに話もしない間柄だ。


あたしは投げやりになってしまった。


まず跡部はまた「くだらねぇ」とか言って流してしまうだろうし。












よし、言ってしまえ。










「いるよ、跡部とか」