今日は全国大会で部員は各自で飲み物を持ってこなければいけないのに、それを忘れた仁王が「ポカリが飲みたいのう」と言いだした。それにのっかったブンタを見た幸村が「じゃぁ、みんなの分も」と。 私はジャッカルに行かせようと提案したのに、なぜか仁王が「が買ってきたのしか飲まん」という意味不明の駄々をこね出した。 愛と勇気とエトセトラ@ というわけで、あたしはこの炎天下、ドリンクの買い出しを言いつけられた。 マネージャーだから仕事だと言われればそうなのだけれど、なんだか仁王の嫌がらせの対象にされたとしか思えない。 「重いなぁ」 口に出してみれば、腕にかかる重みがさらに増したように感じた。 2リットルのスポーツ飲料が6本入ったビニール袋が両手腕の肉に食い込んで赤くなっている。いつもは水の中に粉末を溶かして作っているし、ボールのいっぱいつまった箱なんかを持つ時は柳生がとんできてくれるので、こんなに重いものを持つことは滅多にないから慣れない重みに両腕が悲鳴をあげている。 けれど会場に一番近いコンビニには他の学校も同じ発想をしたのだろう、スポーツ飲料はすっかり売り切れていて、歩いて10分の場所にあるスーパーに足を運ぶしかなかった。 「赤くなってる」 会場の入り口で、いったん荷物を地面に下ろしてビニールの形にすじのついた手を見つめる。 「早く買ってこなマネージャー首じゃ」と楽しそう笑う仁王の顔を思い出して、あんな性格のややこしいレギュラーばっかりの部活なんて、いっそ首にしてくれればいいのにと思った。 それでも幸村や真田にお小言を言われるのも嫌なので、さっさと運んでしまおうと辺りを見回すと、来た道がまったく思い出せず、たくさんあるテニスコートのどこが自分の学校の試合会場なのか、わからなくなっていた。最悪。 ため息をついてしばらく辺りを眺めていたら、どこの学校かわからないけどユニフォームを着た男の子が目の前を通ったので、この人に聞いてしまおうとその後ろ姿に声をかけた。 「立海?あっちの方じゃなかったかな。えーと、説明しづらいから一緒に行こう。」 「良いんですか?」 「うん、そんなに遠くもないしね。ついでにその重そうな荷物も持つよ。」 「そこまでしてもらうと悪いです。」 快く答えてくれたその男の子は、あたしの足下の袋にも気付いて、断りの言葉も聞かずに、地面にあった袋を2つとも持ってさっさと歩き出した。その自然な仕草に、無理矢理奪い返すこともできずに「ありがとう」とお礼を言うと「うん。軽いから大丈夫」と笑顔で答えてくれた。あたしは結構重かったから、やっぱり男の子って違うなと関心して、ついでに同じ男の子でも立海のレギュラー陣とも全然違うなと彼の優しげな横顔を見て思った。 「立海のマネージャーなの?」 「うん。うちの学校知ってる?」 「知ってるよ。すごく強いからね。今の所は日本一だしね?」 性格は最悪だけどね。彼の言葉に、心の中で毒づく。 でも、こうして外からの意見を聞くと、改めてうちの学校の凄さを認めさせられる。 いつもみんながどれだけ練習してるかを一番近くで見てるのはあたしだ。 「うん、練習とかスパルタだしね。」 「でも今年はうちの学校が全国一位になるよ」 あたしの言葉にきっぱりとそう言った彼はなんとも爽やかだった。 自分の学校の敗北宣言をされたのにも関わらず、彼に好印象を持ってしまって幸村達に軽く罪悪感をかかえた。そんなあたしの感情を知ってか知らずか、彼はにっこり笑って立ち止まり「立海は、Gコートだからあそこ。」と見慣れた制服を着た人達のあつまってる場所を指さした。 「荷物ありがとう。お互い頑張ろうね!」 「うん。良かったら、うちの試合も見に来てよ。」 そう言って彼は別れ際に自分の学校の名前と試合のやってるコートの場所を教えてくれた。普段、立海テニス部で鬼のような部員達からこき使われているあたしには、あんな男の子もこういう出会いにも免疫がなくて戸惑った反面、素敵な出会いができたことに嬉しくなって少し軽い足取りで立海のベンチにむかった。 -----------------------------10.02.27 手伝ってくれた彼は不二か鳳です。たぶん。 next |