愛と勇気とエトセトラA 「おまたせー」 「遅いっつーの」 買い出しから戻ったあたしを見て、ベンチにだらしなく座ったブン太が偉そうに言う。 真田や柳はあたしに目もくれず、幸村や仁王は「やっぱりはとろくさい」なんて揶揄するだけで、ねぎらいの言葉もかけてくれない。 立海レギュラー陣のこの態度、さっきの男の子とどうしても比較してしまう。 「だって迷ったんだもん」 「重かっただろ?やっぱ俺も行けばよかったな」 ブン太に言い返すと、ジャッカルが唯一の優しい言葉をかけてくれた。 「ううん。それがね、道聞いた他の学校の子が途中まで持ってくれたんだ。」 「へぇ、良かったな。」 「しかもね、かっこよくて、優しかったの。王子様みたいだったよ」 さっきの出来事をそう伝えると、幸村を筆頭に今までこちらを見ようともしなかったみんなが「へぇ」と、王子様なんて形容をしたあたしを蔑む様な目で見た。 でもあたしはそんな事には慣れっこで、ジャッカルの方に向いたまま気にせずに話を続ける。 「後でその子の試合見に行くんだ。だからみんな、今日の試合は特に早く終わらせてね」 あたしの話に、仁王が「ほう。その王子様ってのは誰じゃ?」と目を光らせた。この意地悪い顔をした男は、あたしの幸せが気に入らない人物ナンバー1だ。 「あ、名前わかんないや。あとで聞こうっと。」 ついでにメルアドとかも聞けたらいいな、なんて思っていたら口元が緩んでしまった。 そんなあたしの幸せが気に入らないのか知らないけど、ブン太に「何だよ不細工な顔」と嫌なことを言われた。けれどあたしはそんなことは気にならない。 「どこの学校のやつじゃ?」 仁王がさっきまでドリンクにしか興味を示さなかった癖に、ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべながら絡んでくる。去年、あたしが憧れた先輩のいるサッカー部に「は仕事しないマネ」という噂を流されたことを思い出す。今回はそうはさせるもんか。 「教えない。仁王ぜったい変なこと言いにいくもん。」と答えると、幸村が横から「、少しは頭良くなってるじゃないか。」と茶々を入れてきた。 「幸村は黙ってて。」 「じゃぁ、目つぶってくれんか?」 幸村のことは気にせずに、仁王はなおもあたしに構ってくる。 「は?なんで?」 「俺の超能力でそれが誰だか当ててやろう。」 「ぜったいやだ。」 いくら仁王が人を騙すのが得意だって、三年間も一緒にいれば面白そうに笑いながら話しかけてくる仁王を警戒するのはあたりまえだ。 ましてや人の恋路(となるかもしれない)なんて、仁王の大好物だってこと、あたしは十分すぎるくらいに知っているのだ。 「やだ」 「いーじゃろ。、ちょっと目ぇ閉じてみって。」 「やだ。だって仁王、何するかわかんないもん」 「人聞きが悪いのう」 仁王が妖しい笑みを浮かべる。 人の困った顔を見るのが趣味みたいな仁王の言うことを聞いてたらあたしの身に何がおこるかわからない。 ボールを取ってこいと頼まれものをすれば、薄暗い用具室に一人きりで閉じこめられ、良い物あげるからと手を出せば虫を渡され、いきなり背中を押されて真田の胸に顔を埋め込んでしまったり、あいつのいじめともいえるあたしへの行動は数えられないくらいにある。 あたしが驚いて顔をひきつらせる度に、仁王は「おもろいのう」と笑う。 幸村は「仁王を本当の笑顔にさせられるのはだけだね」とか言って、仁王をたしなめようともしないし、真田もテニス以外のことには興味なさそうだし、同じ仁王のおもちゃにされている赤也はあたしに被害が及ぶことによって自分の分が軽減すると言って助けてくれない。 「やだやだ」 「何もせんから」 「何もしないんだったら目閉じる必要ないもん」 「良いもんやるから」 「絶対、虫だ」 「それはお楽しみじゃ」 「虫だ!ねぇ、幸村、助けてっ」 「いいじゃない、やってあげなよ」 唯一、仁王を止めることのできる幸村に助けを求めてみたけど、さっきのあたしの対応からか、彼の気分はあたしに味方する気はないらしかった。(たまに気分が向いていると助けてくれるのだ。) 「じゃぁ今、目閉じてくれたら、これからは俺のいうこときかんくて良いぜよ」 「ほんとに?」 「本当じゃ」 そろそろをからかうのも限界みたいだしの、とつまらなさそうに呟く仁王と、柳生が「仁王君はそこまで酷い人でもありませんよ」とあたしに声をかけてきたので、なんだかなぁ。と思いながらあたしは目を閉じた。 瞼をぎゅっと閉じまま手をだすと、仁王が距離を詰めるのを気配で感じることができた。けれど、びくびくしながら差し出してる手のひらには何ものらず、その代わりに唇に何かが触れる感触がした。その感触にあたしは即座に反応できなかった。 -----------------------------10.02.28 柳生の使い方がわからない。 Back next |